いつか今になる将来を、僕は歌う。

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 ※ ※ ※ 「え? もう? はや!」  週明け月曜日の昼休み、職員室。  僕の話を聞いた岩上先生は、あっけにとられたような表情を浮かべていた。 「今すぐに動かないと、このままズルズル後回しにしてしまう気がしたんです」  岩上先生に説教された帰りの電車の中、オンラインストアで安物のアコースティックギターを注文していた。  ほんとうなら楽器屋に行ってゆっくり選ぶのがいいのだろう。  だけど、土日も校務や部活で忙しい僕の場合、楽器屋に行ける時間と気力のある日を探すうちにどんどん月日が過ぎてしまうことが目に見えていた。 「そっか! そうときたら、ちゃんと練習する時間、作らないとね」 「はい。ですので——」  水筒の麦茶で一度喉を潤してから、岩上先生の目を見据えて続ける。 「仕事を効率的に進めるために、これからいろいろ相談させていただいてもいいでしょうか?」  赴任して以来、あまり自分から周囲に相談ができていなかった。  誰もが朝から晩まで忙しそうで、緊急でない相談なんてできる雰囲気ではないから。  だけど、自分のためにも、そして元気に働いて生徒たちに貢献するためにも、他人に頼ってみよう。 「もちろん」  僕の言葉を聞いた岩上先生が、メガネの位置を直しながらほくそ笑んだ。 「私も、早く帰る仲間が増えるのはうれしいよ」
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