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十月半ば。「涼しい」を通り越して、少し肌寒い秋の中盤。
五時間目は、僕が担当する英語の授業だ。
とはいっても、今日の生徒たちは教科書を開いていない。
息抜きの回ということで、洋楽の歌詞をリスニングで埋めるという授業だ。生徒たちの手元にあるプリントには、ところどころ空欄になった歌詞が印刷されている。
「最後の問題は全員正解! 素晴らしい!! では、ワークシートはここまでです」
答え合わせまで終えたけれども、授業終了の号令はまだかけない。
チャイムが鳴るまで、あと十分ある。
「じゃあ先生、約束通りやってくれるんですよね!」
前方の男子生徒の声に続いて、「おおおーっ」という声が教室のあちらこちらから上がった。
「もちろん」
答えるなり僕は、教室の端にもたれ掛けさせておいた黒いメッシュのケースを持ち上げ、ファスナーを開いた。
——先月のとある日の授業中のこと。
雑談でギターを練習していることを生徒たちに打ち明けたところ、「授業中に弾いてほしい」という声が上がったのだ。
もともと洋楽リスニングの回は取る予定だったので、僕は、その日に弾き語りをするという約束を生徒たちと交わした。
それから一ヶ月ほどが経ち、今僕は、ギターを構えて生徒たちの前に座っている。
気を利かせて窓を締めてくれた教室両端の生徒にお礼を告げてから、緊張を吹き飛ばすべく語気を強めてこう言った。
「それでは、今から弾き語りをします!」
生徒たちの拍手を浴びつつ、ピックを振り下ろした。
まだ手に上手く馴染まないアコースティックギターで和音を奏でながら、さっきまで生徒たちにリスニングしてもらっていた英語詞を歌う。
人前で歌うのは大学の軽音部を引退して以来だ。
さすがに現役の頃と同じ調子でというわけにはいかないものの、毎晩練習を積み重ねてきたおかげで、それなりにまとまった。
ギターに関しては、やはり初めて半年未満の初心者ということでミスが多かったけれども、そんなことはどうでもいい。ライブというものは盛り上がるのが最優先だ。
やがて最後のコードをストロークし終えた僕は、一呼吸置き、後から思い出せば恥ずかしくなるであろう気取った決め台詞でパフォーマンスを終えた。
「Thank you」
始まる前よりも大きな、そして一体感のある拍手が僕を包み込んだ。
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