いつか今になる将来を、僕は歌う。

3/14
前へ
/14ページ
次へ
 ※ ※ ※  その日の放課後、職員室で試験問題作成を進めて一時間ほど経った時。  ファイルを上書き保存してPCを一度スリープさせた僕は、机に両手をついて立ち上がった。  昨晩十分に睡眠時間を取れなかったせいだろうか、両側のこめかみを圧迫するような頭痛に襲われ、いまいち作業に集中できない。   気分転換も兼ねて、教室で自習している生徒たちの様子を見に行くこととした。 「森谷先生」  伸びをしながら出口に足を向けた途端名前を呼ばれ、振り返る。  学年主任の近藤(こんどう)先生が、事務的な表情を僕に向けていた。 「この前話した保護者向けアンケートなんだが、教育庁から締め切りを早めるように言われてだな。悪いけど、週明けには持ってきてくれないか」 「はい、わかりました」  今日は金曜日。週明けが締め切りということは、土日に自宅で作業か。  頭の中でスケジュールを組み立てながら手帳にメモを書き、職員室を後にした。  二年生の教室のある三階へ向かう途中、近くの音楽室から軽音部の練習の音が聞こえてきた。  たしか、ライブが近いとのことで、延長願を出しているんだったか。  疾走感のあるギターリフを聴くうち、自然と足取りが早くなる。  なんだか懐かしいな。  そういえば僕も、大学時代はサークルでバンド活動に打ち込んでいた。  音楽で自分を解放し、仲間と一体になるあの感覚。  数年前に浸っていた高揚感を胸の奥から引っ張り出そうとしたけれども、締め付けるような頭痛のせいでうまくいかなかった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加