いつか今になる将来を、僕は歌う。

4/14
前へ
/14ページ
次へ
 ※ ※ ※  教室にたどり着くと、そこに居たのは一人の男子生徒のみ。  どうやら他の生徒たちは帰ってしまったようだ。二年生の夏になり、最近は学習塾に通う生徒たちも増えてきた。  教室後方の席に座っているその男子生徒——光は、またも机に突っ伏して寝ていた。   こうなっているであろうことは予想していた。  そもそも、ここに光が居るのは、僕が半ば無理やり居残りさせているからだ。  今日提出の英語のワークを出せていないのは、僕のクラスでは光だけだった。  テストの点数も芳しくない光には、せめて提出物にはしっかり取り組んでもらわなければならない。そうでないと、成績表に「1」をつけざるを得なくなる。  推奨はしていないが解答を見ることもできるし、分量としてもそこまで厳しい課題ではないはずだ。  なんとか、このワークくらいは今日で提出してもらおう。 「おい、光」  光の側に寄り、肩を揺する。 「あ、先生」 「そのワークは今日で出すように言ったよな。あと一時間で最終下校だぞ。そんなんで間に合うのか?」 「いやー、ヤバいんじゃないですかね」 「自分でそう思ってるなら、シャキッとして勉強しなさい」  はーい、と言って教材に目を落とすものの、どこか上の空だ。  このままでは、僕が教室を去れば再びサボるのは明らかだった。   「ちょっといいか」  担任として、このまま光が落ちぶれていくのを見過ごすわけにはいかない。  そう考えた僕は、ゆっくりと息を吐きながら光の前の席に腰を下ろした。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加