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「光、卒業したら、進路はどうするつもりなんだ?」
「わかんない」
「……興味ある分野とか、将来やりたいこととか、ないのか?」
「ないっす」
なんとなく想定していた反応であるとはいえ、ここから先どのように話を続けていいか判断に迷う。
それでも簡単に引き下がるわけにはいかないから、苦し紛れに説教を続けた。
「まあ、進路は今すぐ決めないにしてもな、勉強はしておいた方が後々のためだぞ」
「勉強勉強って」
気だるそうに頭を掻きながら、吐き捨てるような調子で光が続ける。
「そんなに勉強して、俺にどんな良いことがあるんですか?」
「そりゃ、偏差値の高い高校に行ければ、将来の選択肢が増えるだろ」
こんな凡庸な諭し方で気合を入れ直すような生徒ではない。
だから、光の表情が動かなかったのは、悔しいながら想定内。
それよりも僕の不意をついたのは、次に彼から投げかけられた質問だった。
「先生は、たくさん勉強してきましたか?」
「えっ?」
突然の質問に一瞬戸惑いつつも、嘘偽りなく返答する。
「それは、もちろん。してきたとも」
「その結果、今楽しいですか?」
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