無為

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無為

薄明の空を背に帰路を急ぐ人の流れを無関心な眼差しを向けながら、私は今日も誰もいない職場のビルの屋上で眺めていた。 「夕焼け小焼けで、日が暮れて……」 力なく紡いだその歌を幼い頃は母と手を繋いで優しい気持ちのまま歌えていたというのに、今では嘘みたいに切なくなるだけだった。 それでも口ずさんでしまうのは、心の奥底で戻りたいと願う自分がいるからなのだろうか。 この答えは一生かかっても辿り着くことは出来ない、出来るわけないのだ。 一つため息をついても風に揉み消されていくのを感じながら、軽々しくフェンスを飛び越える。 ビルの屋上の縁に真っ直ぐ立った私を、誰も見つけてはくれない。沈んでいく夕日さえも、私を照らしてはくれない。 そっと綺麗に靴を脱ぎ揃えて、私は胸元のポケットから《遺書》の二文字が書かれた封筒を靴の踵に噛ませた。これを見つけてくれる人がきっといると、そう信じてその場に置くしかない。
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