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“天に抗う者達を探せ”
父が遺した言葉を忘れたわけではないが、先立つものがなければどうしようもない。
しばらくの間働いて、貯めた給金で旅支度をしようと日継は考えていた。
夕食を終えた後、日継は身支度を整えた。
今夜は用心棒として不寝番を任されている。
「華月、今日は先に寝ていいから」
日継がそう言って優しく頭を撫でると、華月はこっくりと頷く。
あの夜以来、彼女は全く言葉を発さなくなった。
仕事に支障はない。
むしろ口のきけない娘を不憫に思うのか、厨房で働く使用人達は華月に優しく接してくれているようだ。
だが、家が燃えているのを目撃した上に、別れも言えず父を喪ったのだ。
彼女の心に深い傷が残るのは当然だろう。
物言わぬ華月を見る度に、日継は責任を感じ、これ以上傷つくことがないよう護らなければ、という思いを新たにするのだった。
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