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日継は敷地の奥側に向かって歩いていき、商品や金子を保管している蔵の前で、番を引き継ぐため声をかける。
「交代の時間です」
「おう、あと頼む」
矛を受けとると、彼は胸の前で両手を擦りあわせながら使用人区画に戻っていった。
夜はかなり肌寒い。外套を羽織ってきて正解だった。
日継はそう思いながら、懐を探り五色の勾玉の所在を確かめる。
丈夫な革紐で結ばれたこの勾玉が、自分たちが襲われた原因であろうこと、そして追手がかかる可能性があることは容易に推測出来た。
故に日継は誰の目にも触れぬよう懐にしまい、肌身離さず持ち歩くようにしている。
仕事をもらっておきながらどうかと思うが、むやみに目立たぬよう、朝まで何事も起きずにいて欲しい。
そう願った矢先、日継の耳にチリチリと何かが鳴るような音が届いた。
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