序章

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ここは天都国の王宮。 弱冠二十歳の若き(おおきみ)は、執務室で頭を抱えていた。 今年は夏に続いた長雨で、総じて不作だ。 このままでは食料を巡って各地で小競り合いがおきかねない。 争いは飢えと流民を生み、いきつく先は死を招く。 昨年王の座に就いたばかりだというのに、彼の治世には早くも暗雲が漂い始めていた。 「王」 「何だ」 「神官達が謁見を申し出ております。至急お伝えしたい事があると」 王は嘆息した。何かにつけて予言だ神託だと騒ぎ立てる彼らを疎ましく思っていたからだ。 しかし王宮における神官達の影響力は未だ強く、無下には扱えない。 「通せ」 執務室に入ってきたのは神官長だった。 「王、謁見を許可いただきありがとうございます」 神官長は王の前でひざまづき、恭しく頭を垂れる。 「前置きはいい。用件を話せ」
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