第3章

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  「僕は……魔法というのは本来、誰かを幸せにするために存在するものだと思う。そして、それを自分の都合のために使おうとすると、こんな風に天罰が下る。……けれど、もしも何の意図もなく、突発的に、無意識のうちに使った場合はどうなると思う? 自分でも気づかないうちに不思議な力が働いて、不思議なことが起こる。それって、奇跡だと思わない?」 「あ……」  そこまで聞いたとき、私はやっと彼の言う『奇跡』の意味を理解したような気がした。  まもりさんはシャツの袖を元に戻すと、わずかに視線を下げ、どこか寂しげな笑みを浮かべて言った。 「僕がここで待っているのは、そんな『奇跡』を起こした人なんだよ。穢れのない心で、人のために無償の愛を捧げられる、そんな人だった。……もう、顔も覚えていないけれど。それでも僕は、もう一度その人に会いたい。もう一度会うために僕は、ここでずっと待ち続ける。……ここに来てくれるかどうかは、わからないけれど」  そう彼が言い終えたとき、窓を打ちつける雨の音が急に激しさを増した。  容赦なく降り注ぐ雨の音だけが、静寂を保つ店内に響いている。  その寂しげな風景は、まるで彼の心を表しているかのように、私には見えた。  彼がこんなにも寂しい思いをしているのに、私は何もできない。  何もしてあげられない――そう思うと、悔しくて、悲しくて、段々と目頭の奥が熱くなって、鼻の奥がつんとする。  私が泣いたって仕方がないのに。  彼の姿を見ていると、相変わらず泣き虫な私は、込み上げる涙を抑えることができなかった。    
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