第1章

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   このタイミングで、雨が降ってきた。  凹んでいる私に追い打ちをかけるような、ちょっと強めのにわか雨。  容赦のない水責めに、髪も、制服も、すべてがずぶ濡れになる。  今朝の天気予報では、今日は雨が降るなんて一言も言っていなかったのに。  梅雨入りだって、まだ数日は先のことだと言っていたのに。 「……うぅ……っ」  あまりの仕打ちに耐え切れなくなって、私はついに涙を零した。  その場にうずくまり、膝に顔を押し当てる。  情けない。  高校一年生にもなって、路上でひとりで泣いているなんて。  昔からそうだった。  困ったことがあると、すぐに泣いてしまう。  泣いても仕方がないのはわかっているのに、勝手に涙が溢れてきてしまう。  こんな子どもみたいな姿、誰にも見せたくはないのに。  けれど、幸か不幸か、この辺りはひと気が少ない。  道の横には、暗い森の入り口がある。  閑静な住宅街の中で、ここだけが異様な雰囲気を放っている。  森の奥には、廃墟と成り果てた空き家がいくつかあった。  中には肝試しに使われるような薄気味悪い洋館もあって、普段はあまり人が寄り付かない。  この場所でなら、少しくらい泣いたって誰にも気づかれないはず。  と、そう思っていた、そのとき。 「大丈夫?」  声が降ってきた。  優しげな声。  男の人の――。 (……誰?)  私はそろそろと顔を上げた。  すると、そこに見えたのは知らない顔。  線の細い、中性的な顔立ちをした、大学生くらいの男の人だった。  一瞬女の人かと思うくらいのきれいな人。  ほんのりと垂れ下がった目尻が、どこか儚げな雰囲気を漂わせている。  身なりは白いシャツに黒いパンツ。  腰にはエプロンを掛けているので、どこかのお店の人だろうか。 「どうしたの。何か悲しいことがあった?」  名前も知らないその人は心配そうにこちらの顔を覗き込み、そして、手にした傘をこちらへ傾けてくれる。  
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