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「……あ、え……。ええと……っ」
いきなりのことに緊張した私は、顔面がカッと熱くなるのを感じた。
泣き顔を見られた。
うずくまって泣いているところも。
(は……恥ずかしい!)
思わずその場に立ち上がり、情けない顔を隠すようにしてすぐさま背を向ける。
「なっななななっなんでもないです!」
すかさず逃げ出そうとした私に、
「待って」
彼はそう言って、私の手をそっと掴んだ。
「そのままじゃ風邪をひいちゃうよ。まずは身体を拭かなきゃ。すぐそこに僕の店があるから、おいで」
「え……?」
言い終えるが早いか、彼は私の手を引いて、森のある方角へと足を進めた。
「えっ、えっ……。あ、あの、一体どこへ?」
「この奥だよ」
彼の視線の先にあるのは、薄暗い森。
奥に見えるのは、古びた洋館。
その外壁はあちこちの塗装が剥がれ、さらには伸び放題になった植物が絡みついている。
通称・お化け屋敷。
夏には肝試しの舞台となっているその洋館に向かって、彼は進んでいく。
「えっ、あの。もしかして、ここに入るんですか?」
まさかの展開に、私は声をひっくり返らせた。
お店、と彼は言っていたけれど。
これはどう見てもお店じゃないし、ましてや普通の家でもない。
こんな怪しげな場所に連れ込んで、まさかとは思うけれど、非合法的な薬を売りつけようとか、何か良からぬことを企んでいるのでは――なんて邪推していると。
「……ん?」
足元。
洋館の入口横に立てられた、小さな看板が目に入った。
『OPEN』――と、黒板になっている表面にはそれだけ書いてある。
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