第1章

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  「……あ、え……。ええと……っ」  いきなりのことに緊張した私は、顔面がカッと熱くなるのを感じた。  泣き顔を見られた。  うずくまって泣いているところも。 (は……恥ずかしい!)  思わずその場に立ち上がり、情けない顔を隠すようにしてすぐさま背を向ける。 「なっななななっなんでもないです!」  すかさず逃げ出そうとした私に、 「待って」  彼はそう言って、私の手をそっと掴んだ。 「そのままじゃ風邪をひいちゃうよ。まずは身体を拭かなきゃ。すぐそこに僕の店があるから、おいで」 「え……?」  言い終えるが早いか、彼は私の手を引いて、森のある方角へと足を進めた。 「えっ、えっ……。あ、あの、一体どこへ?」 「この奥だよ」  彼の視線の先にあるのは、薄暗い森。  奥に見えるのは、古びた洋館。  その外壁はあちこちの塗装が剥がれ、さらには伸び放題になった植物が絡みついている。  通称・お化け屋敷。  夏には肝試しの舞台となっているその洋館に向かって、彼は進んでいく。 「えっ、あの。もしかして、ここに入るんですか?」  まさかの展開に、私は声をひっくり返らせた。  お店、と彼は言っていたけれど。  これはどう見てもお店じゃないし、ましてや普通の家でもない。  こんな怪しげな場所に連れ込んで、まさかとは思うけれど、非合法的な薬を売りつけようとか、何か良からぬことを企んでいるのでは――なんて邪推していると。 「……ん?」  足元。  洋館の入口横に立てられた、小さな看板が目に入った。  『OPEN』――と、黒板になっている表面にはそれだけ書いてある。  
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