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その返答に、私はどきりとした。
「それって……」
この先はまずいとわかっていながらも、好奇心の方が勝ってしまった私は、あえて彼を止めようとしなかった。
「僕には昔、とても憧れていた人がいたんだ。……今ではもう、ほとんど覚えていないんだけれど」
そこで彼は、僕は忘れっぽいからねと冗談っぽく笑った。
その言葉の真意を知っている私は、どんな顔をすればいいのかわからなかった。
やがて彼は静かに席を立つと、雨粒に覆われた窓辺に立って、いつもよりさらに暗い森の景色を見上げて言った。
「……でも一つだけ、確かなことがある。僕の会いたいと思っているその人は、正真正銘の『本当の魔法使い』だったんだよ」
「え……?」
本当の魔法使い。
それは、まもりさんとどう違うんだろう?
私が黙っていると、彼はゆっくりとこちらを振り返り、その垂れ目がちな瞳にわずかな光を携えて言った。
「その人は僕と違って、魔法を使ってもその代償を受けることはなかった。なぜだかわかるかい?」
聞かれて、私は以前彼から教わったことを思い出す。
そのときの彼の言葉を借りるなら、それはつまり、
「『心が穢れていないから』、ですか?」
「その通り」
彼は満足げに頷いてみせた。
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