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「その人は僕と違って、見返りを求めたりしない。自分にとっての利益など考えもしない。ただ誰かのことを思って、その人のためだけに魔法を使う。……むしろ、自分が魔法を使っていることにさえ気づいていないのかもしれない」
「えっ?」
魔法を使っていることにさえ、気づいていない。
予想外の言葉に、私は首を傾げた。
「それって、なんだか変じゃないですか? 自分でも気づかないってことは、それが魔法かどうかも怪しいっていうか……」
それが魔法であることを、誰も証明することはできない。
それは果たして『魔法』なのだろうか?
「『魔法』という言い方をするから、違和感があるのかもしれないね。あれはもはや魔法じゃない。あれは魔法を超越した現象――『奇跡』だよ」
「奇跡?」
「そう」
新しい言葉に言い換えられて、私はそれをどう受け止めるべきか悩んだ。
奇跡と魔法は、似て非なるもの……らしい。
その二つに対して、まもりさんは一体どんな違いを感じているのだろう?
私がいまいちピンとこないでいると、彼は今度はおもむろに、自らの左腕の袖を捲り始めた。
店の制服である白いシャツの下からは、彼の華奢な腕が姿を現す。
「!」
そこで私は、目を見張った。
彼の左腕の表面には、切り傷や打撲の痕のような、おびただしい数の古傷が残っていた。
中には私にも見覚えのある、比較的新しい傷も含まれている。
それらは紛うことなく、彼の魔法の代償によるものだった。
まもりさんはその傷跡に目を向けながら、
「これは、僕が『偽りの魔法使い』である証だよ」
と、どこか覇気のない声で言った。
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