第3章

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   ――まもりが記憶を消したのは、いのりの心を守るためだったんじゃないかって思ってる。  流星さんが言っていた。  彼らが記憶を失くしたのは、いのりちゃんのためを思ってまもりさんが選択したこと。  それを第三者である私が横からどうこうしようとするのは、おこがましいことではないのか?  そもそもあの二人を会わせたところで、お互いの記憶がすぐに戻るとは思えない。  私が余計な真似をすることで、結果的にはまた二人を傷つけてしまうかもしれない。 (私は、どうすればいいんだろう?)  いのりちゃんと、まもりさん。  二人がいま苦しんでいるのは、きっと心のどこかに不安や後悔の念があるからだ。  それは失われたはずの記憶が、断片的に残っているせいなのかもしれない。 (……どうして、残っているんだろう?)  ふと、疑問に思った。  まもりさんは今まで、魔法で何度も人の記憶を消してきた。  そのせいで、彼自身もたくさんの記憶を失ってきたという。  でも、彼らの心には記憶の断片が残っている。  すべてを忘れてしまえば楽になれるのかもしれないのに、彼らの心はそうはならない。  それは、まもりさんの魔法が『未熟』なせいなのか?  いや。  もしかすると。 (いのりちゃんも、まもりさんも、本当は……)  忘れたくない――と、無意識のうちに思っているのではないだろうか。  たとえ記憶が曖昧になっても、心の奥底に留まり続けるもの。  それは、彼らにとって『絶対に忘れたくない記憶』なのではないか?  たとえどんなにつらい記憶だったとしても、彼らは心のどこかでそれを覚えていたいと願っているのかもしれない。  悲しみも、後悔も、すべて。  
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