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煙管の匂い
地面が赤いレンガで舗装されているこの街は、魔法使いが道具を売り買いする為に作られた。黒い街灯が立ち並んでおり、夜になると冷たい印象を与える青い炎が燃え始める。薄暗い雰囲気が漂う”ミズダリア”の街では、道行く人々が黒い装束を身に纏っているので、彼らがどんな表情を浮かべているのかはいつも謎に包まれていた。俺の故郷で黒装束に身を包んだ奴が街に居たら噂になるが、この街では暗緑色の洋服を着た俺の方が噂話のタネになる。
居心地が悪くなった俺は、足を速めながらある魔法道具の店を探した。裏路地に入り、地面に転がる瓶に気を付けながらしばらく歩くと、木製の扉が現れる。ドアノブを数回ひねった後、しばらく待つと
「よぉ~久し振りじゃねえか」
髭を剃らず、だらしない恰好をした男が扉を開けた。
「大掃除をしてない様だな…」
「これでもした後だぜ?まあ入れよ」
重い扉を閉めて中に入ったが、地面に書籍が置いてあるので歩きづらい。狭い部屋の隅に置いてある机の横に、扉を開けた男が本を積み始めた。
「ここへ座れって意味か?」
「連絡も入れずに来きんだから、我慢してくれ」
そういいながら、ガラス製の実験器具に珈琲を入れ始める。数日は放置されていただろうと思われる焦げ茶色の液体を、俺に堂々と出す様子を眺めながら、よく店が潰れないなと考えていた。
「それで、なんか買ってくのか?」
彼が煙管で煙をくゆらせると、部屋の中は異様な雰囲気に包まれ始めた。魔道具屋の店主であるこの男、ヴィスタ・ダラニスの作品である。煙には種類があり、琥珀色や濃紅色の煙を吸い込むと、怒りの感情が吐き出される。本人の意思に関係なく感情が吐き出されてしまう為、煙管の使用をする際は厳重な規約の元に吸わねばならない。
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