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「ただいま。」 「お帰り。どうだった?」 「拓ちゃん3位だったよ。」 「そう、頑張ってたもんね!これから 受験一色になるのかしらね。」 「うん。」 「桜子悪いんだけど、お好み焼きのソース 買ってきてくれる?」 「え?疲れてるのに。」 ぶすくれながら答える。 「そこをお願い!お好み焼き作ったのに、ソース 買ってきてないのに気づいちゃって。」 「もう!」 まぁ、お母さんあるあるだけどさ。 仕方なくラフな格好で 近所のコンビニにむかった。 少し多めに渡されたお金で、 大好きなアイスも二本。 拓ちゃんの分も一緒に買うことにした。 帰り道、いろいろ考えた。 今までは、遠くに行くなんて剣道の遠征くらいだ。 大学になったら、もしかしたら拓ちゃんは 地元を離れるかもしれない。 まだ、あと一年高校生の私だけど 今しかないのかなぁ。 ぼんやりとしながら歩く。 前に人影が見えた。 拓ちゃんだ。 「拓ちゃん!」 暗がりでも拓ちゃんの影はわかった。 走っていく。 「桜子。」 いつもの拓ちゃんの低い声。 近づくと、後ろからひょっこり可愛い女の子が 顔を出した。 だれ? 「ああ、桜子に紹介してなかったな。 剣道部のマネージャーの愛美。」 「こんばんは。もしかしたら幼馴染の桜子ちゃん?」 親しげにそう言われた。暗いのに、 そこだけぱっと明るく見えた。 「そうそう。」拓ちゃんが答える。 「初めまして。幼馴染の今井桜子です。」 私が答えると 「初めまして。マネージャーの米倉愛美 です。」 と、人懐っこい笑顔で、そのマネージャーは言っ た。 「拓ちゃん、今日は惜しかったね。でも 3位おめでとう。」 「おおう。見に来てくれてたんだ。」 いつもみたいにぶっきらぼうに拓ちゃんは 答えた。 「せっかく見にきてくれたのに、その言い方。 ねっ。桜子ちゃん。」 マネージャーは、拓ちゃんを睨みながら答えると 「そっかなぁ。」 そう言いながら、拓ちゃんの見つめるマネージャー への瞳は凄く愛おしそうだった。 そうか、そういうことなのか。 「そうだ。私アイス買ってたんだ!ごめん 先に家に行くね!」 頭をペコリと下げると 「今度は、女子同士仲良くしてね!」 とマネージャーは言ってきた。 「はい。失礼します。」 「俺は仲間に入れてくれないのかよ。」 そう、マネージャーに話す拓ちゃんの声が 痛かった。 急いで玄関に入った。 完敗だ。 涙が溢れそうになる。 まさか、今日拓ちゃんに2回も 泣かされるなんて。 ビニール袋の中を覗くと もう、二本のアイスは溶けて ほとんど形もなくなってしまった。 私の初恋は、アイスのように溶けてしまった。
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