1.誓い

3/3
前へ
/145ページ
次へ
「ねえ千紗……まだ?」  再びドアの向こうからかけられた声に、私は慌ててふり返る。   「うん。あと少し……」 「もう! ……本当に急いでね?」 「うん」    介添え役をやってくれている美久ちゃんを騙し続けるのも、もうこれ以上は無理な気がする。   (どうしよう……そろそろ本当のことを言ったほうがいいかな……?)    心の中の葛藤を持て余し、何気なくもう一度窓の外へ目を向けた時、遠くに小さな人影が見えた。    私と同じように純白の衣裳に身を包んだ、スラッと背の高いその人は、普通に町中を歩いていたら目立って仕方がないはずなのに、そんなこと微塵も気にしていない。  少し悪い右足のせいで走ることはできないが、以前よりはあまり足をひきずらなくなった軽快な歩みで、こちらへ向かって真っ直ぐに歩いてくる。    春の陽射しは優しく、彼の淡い色の髪に光の輪を作る。   (まるで天使みたいだよ、紅君……)  ふとそういうふうに思ってから、私は慌てて首を横に振った。   (ううん。天使なんかじゃない……私の大切な人。だからまだまだ、天には連れていかないでください……これからもずっと……私の傍に居させてください……)  私の心の中の祈りが聞こえたかのように、紅君がこちらへ目を向けた。   「ちい!」  大きな声で私の名前を呼び、伸び上がるようにして手を振るから、私も振り返す。   「紅君!」  大好きなあの笑顔が、少しずつ近づいてきた。   
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加