一年後

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一年後

一年後。 部屋に響き渡るのは、赤ん坊の泣き声。広がる香りは、甘いミルクの匂い。 夫は、タバコを辞めた。そしてわたしは約束通り、蚊取り線香をつけなくなった。 「はいはい。泣かないの」 ぐずる我が子を抱きかかえて、あやす。子をあやすのも、ずいぶん慣れた気がする。 「あゆみ。ハガキ着てたよ」 「誰から?」 手が離せないので、夫に差出人を確認してもらう。 「えーと、小原(おばら)愛美(まなみ)さんから。ご出産、おめでとうございます。諸事情により、お伺いする事は出来ませんが、心よりお祝い申し上げます。だってさ」 お義姉(ねえ)さん……。 懐かしい名前と、祝いの言葉に。胸がつまり、喜びが込み上げる。 彼の繋いでくれた縁は、簡単に切れたりしない。別れとは、辛く悲しいだけのものではないのだ。 我が子の顔を眺める。本当に、愛おしい。本当に、可愛らしい。 「あゆみ。そんなに、会いたかったの? 急に、泣き出して」 いいえ。いいえ。 そんなんじゃないの。本当の本当に、未練なんて無かったのよ。 ただ、ニコニコと笑う我が子のえくぼに、懐かしさを感じただけなの。
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