2.団地妻の復讐、最高の恋愛

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2.団地妻の復讐、最高の恋愛

お題「団地妻の恋愛」    旦那は出て行った。それが、今朝未明。なにも言わず、通帳を盗んで、子どもを捨てて、私を裏切った。不倫相手の家に転がり込んだに違いない。朝六時、飛び起きた私は、全身真っ黒の服に着替え、スマートフォンとカメラ、旦那が書き残した離婚届を持って家を飛び出した。息子はまだ、さっきまで私が眠っていた布団で眠っていた。  不倫女の家は特定済だ。興信所に依頼したのが、半年ほど前になるだろうか。証拠がざかざか出てくるというのに、旦那に直接糾弾せずにいた。どんな復讐をしてやろうか考えあぐねていた。私と息子を、廃墟同然の田舎の団地に放り込んでおいて、自分は不倫女にタワーマンションの一室を買い与えて、幸せに暮らそうなんて、そんなことが許されるわけがない。全て奪ってやる。一生かけて償わせてやる。その時私が何か失ったとしても、息子と命以外なら造作もない。息子のいる自宅から、女の住むマンションまでは電車で三十分ほどかかる。しかし、馬鹿だな。私から逃げ切りたいなら、どうして同県内にマンションを買うのだろうか。三十階ほどある、立派なマンション。私の住むところよりはましだが、所詮田舎。しかし駅近の新築。相場は四千万前後といったところか? 一か月と少ししか住めなくて残念だったな。びっくりするほど楽しくて、表情筋が痛むほど笑った。自宅に仕掛けた監視カメラの映像、興信所から貰った不倫現場を激写した資料の数々のコピーが、あいつの実家と会社に今日届くはずだ。破滅させてやる。どうせこの家に押し入ったらセックスでもしているのだろう。その様子もビデオに撮って、ネット掲示板で晒上げてやる。  女の家のインターホンを鳴らした。そして出てきた女を見て、私の憎悪は消え去った。 「どちら様ですか?」  美しい。美しい……。  不思議そうにする女の奥、リビングのソファで、全裸の夫がくつろいでいるのが少しだけ見えた。 私は彼女の手を引いた。急いで着たのだろう彼女の服は、ひどくはだけていた。 「私と来て。あなたが好きよ。あいつから慰謝料とって幸せに暮らすの」  一生訪れないほどの恋愛の炎が、強く燃えていた。
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