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あのね。好きな人とお付き合いをはじめたの。えへへ。
僕の好きな人はそう言った。胸がぎゅっと締め付けられた。
彼女は喜んでいた。真っ黒い瞳の、綺麗な目を細めて、抱きしめて、どれほど嬉しいかを僕に伝えてくれた。だから僕は、そうなんだと喜びの意思を伝えたんだ。笑顔であれたと思う。
泣いてしまいたくなる。
だって、僕に私の好きな人は君ではないと面と向かって言われたようなものだからだ。彼女の話を適当に切り上げたところで、足早に彼女から離れた。用事があると家路を急いだ。逃げるための嘘だ。
ぐずつく鼻を啜る。足は止めない。
泣くな。泣くな。泣くな。泣くな。
僕の家に着いた。公園の隅、藪の中の段ボールだ。今はここが一番安全で、よく休める。また彼女はいつもの場所で僕を待っていてくれるだろう。わかるだけに、哀しい。大好きなパンを持ってきてくれるはずだ。
もう行くのをやめようかな。でも、またもし、彼女が寂しそうにしていたらどうしよう。考えるだけで僕は苦しかった。
やっぱり会いに行こう。
あのとき寂しそうに泣いていた彼女を笑顔にしようと決めたのだから。会いたいと思う気持ちに素直で行こう。
身を丸めて眠る。明日も早い。
近所のおじさんから晩ご飯の残りを貰わないと。
夕暮れ、僕は走るのだ。河川敷で待ってくれている女の子と元に。
あの子が笑顔を綻ばせてくれる瞬間が最高の喜びなのだ。
わん。
どうか伝わりますよう。
この喜びと、感謝と、想いが。
どうか叶いますよう。
あの子の願いが。
彼女の前では気持ちの躍動が止まらない。尻尾のふりも隠せない。だからどうか届きますよう。
――――大好きです。
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