九月 ラブホテル

2/3
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
「ああ、やっぱお前サイコー」 「どーも」  じゅぷ、と音がして結合が解かれる。だらしなく伸びたコンドームの先にはどろどろの白い塊が溜まっていた。 「濃いね」 「締め付けるからだよ」  ごろりと横に並んで最後のキス。恋人でもなんでもないのにキスが好きだった。今夜だけはあたしのもの。夜の、この瞬間だけ。その証拠。  首元にもキスマークを着けようとするとぐい、と肩を押される。強い男の力。抗えなくて睨み付けると肩を竦めるトモヤ。申し訳なさそうな顔が半分もう半分はいやらしい獣。 「彼女にバレるって」 「バレれば良いのに」  彼女がいるのにセフレを作る理由って何なんだろう。まったく男って不思議な生き物だ。いつかはバレてしまう嘘なんだから、はじめから付かなきゃ良いのに。  面倒くさくなってベッドサイドのタバコの箱をたぐり寄せる。裸のまま。なんとなくシーツで胸を隠して。火を点けた。  百円ライターはどうしても造りがちゃっちくて火傷してしまいそう。セブンスター。14ミリグラム。苦いけれど、これがまた癖になってしまうのだ。タバコの中で一番好きな味。煙を吸い込んで、肺の中に送り込む。それから空気の循環を感じながら、もう一度新鮮な空気を取り込む。渋みと苦みと、懐かしい匂い。口から吐き出せば白い煙はすぐにどこかへ霧散されてしまう。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!