終文ーついぶみー

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終文ーついぶみー

恋を語る手紙を 恋文と呼ぶのなら 終わりを語る手紙は 終文(ついぶみ)とでも呼ぶべきでしょうか 終文を あなたに送ります 私の終わりを 終わりへの思いを したためたこの文が いずれは 消えて無くなるのだとしても 終文を あなたに送ります 終わりゆく世界の中で 終わりゆくあなたが 終わりゆく私とともに 終わりを思ってくれたなら 終わりを話してくれたなら それはとても 嬉しいから だから この終文は あなたのものです あなたのものですから どうぞ ご自由にしてください 破っても 捨てても 忘れても構いません でももしも その気になったなら 返事を下さいね そうして緩やかに 静かに 終わりゆきながら 終わりの話をしましょう そうして穏やかに 柔らかな砂が崩れるように ふたり 風のようになれたら 良いですね いずれ 私たちは 何もかもを失って消えるから たとえば 無意味な祭をするように 賑やかな徒労で 笑い合うのも良いでしょう あるいは 命の意味を探すように 切実な言葉で 尋ね合うのも良いでしょう 何でも良いのです ただ 聴いていたいだけ ありのままの風を 自分の呼吸を 誰かの声を あなたの言葉を きっと 私たちは 正しく終わっていけるから 怖れも 嘆きも 伝えてほしい 何気ない 日々の暮らしを生きながら まるで 恋文の返事を待つように 私は風の中で あなたの終文を待っています いつかあなたが 終わりを思うときまで ずっとずっと 待っていますよ そのときあなたが 私のようであれば良いと 期待を抱くのは 贅沢でしょうか 願わくば あなたからの終文に 涙が滲んでいませんように あなたの終文から 嗚咽が聞こえませんように 私に終文を 差し出すあなたの顔が 安らいだ微笑みでありますように あなたの大切なものが 正しく失われますように そうしてすべて あなたと 私と 私たちが残してきたものと 私たちと関わるすべてのものが 綺麗に消えていけますように 最終的には何も 無くなりますように 最後の祈りで糊を濡らして 表に白紙の宛名を書きます あなたには はじめから 名前は聞いていませんでしたね そうして 真っ白な封筒に入れた 終文を あなたに送ります 嬉しいですか? 悲しいですか? どうでもいいと思いますか? いずれにしても この終文は あなたのものです もうずっと あなたのものですよ
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