この涙は雷のせい

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私には好きな人がいる。 大きな背中に、大きな手。 日焼けした顔が笑うと口元から白い歯が覗く。遠くからその姿を見つけるだけで、胸が音を立てて跳ねる。 そんな彼が今、私の目の前にいる。 放課後の廊下の真ん中で、俯いて何も言えずにいる私の事を不思議そうに見つめていた。 私が呼んだんだ。伝えたい事があるって。とっくに覚悟はしたつもりだったのに、いざ彼の前に立つと口が上手く動かない。明るかった空もいつの間にかどんよりと薄暗くなっていて、今にも泣き出しそうなくらい暗澹としている。 彼が不意に踵を巡らせる。用事があるらしく、申し訳なさそうに微笑みながらここから去ろうとした。 「待って!」 私は叫んだ。自分の想いを伝えたい、その一心で 「ずっと前から、好きでした!」 と言った、その時だった。 近くに雷が落ち、私の声は轟音に掻き消された。 不思議そうな表情を浮かべたままの彼は、首を傾げ、なんて言ったの? 私にそう聞いてきた。 その後すぐ、彼は迎えに来た自身の彼女と一緒に帰ってしまった。待たせていたらしい、用事とはその事だった。 曇天はとうとう堪えきれず、雨が降り出した。私も、そう。例えようのない心に、いつの間にか涙が零れていた。
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