0人が本棚に入れています
本棚に追加
私には好きな人がいる。
大きな背中に、大きな手。
日焼けした顔が笑うと口元から白い歯が覗く。遠くからその姿を見つけるだけで、胸が音を立てて跳ねる。
そんな彼が今、私の目の前にいる。
放課後の廊下の真ん中で、俯いて何も言えずにいる私の事を不思議そうに見つめていた。
私が呼んだんだ。伝えたい事があるって。とっくに覚悟はしたつもりだったのに、いざ彼の前に立つと口が上手く動かない。明るかった空もいつの間にかどんよりと薄暗くなっていて、今にも泣き出しそうなくらい暗澹としている。
彼が不意に踵を巡らせる。用事があるらしく、申し訳なさそうに微笑みながらここから去ろうとした。
「待って!」
私は叫んだ。自分の想いを伝えたい、その一心で
「ずっと前から、好きでした!」
と言った、その時だった。
近くに雷が落ち、私の声は轟音に掻き消された。
不思議そうな表情を浮かべたままの彼は、首を傾げ、なんて言ったの? 私にそう聞いてきた。
その後すぐ、彼は迎えに来た自身の彼女と一緒に帰ってしまった。待たせていたらしい、用事とはその事だった。
曇天はとうとう堪えきれず、雨が降り出した。私も、そう。例えようのない心に、いつの間にか涙が零れていた。
最初のコメントを投稿しよう!