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7月1日。
俺は部活に没頭していた。
部活はバスケ部。一応、スタメン。
今日はなんだか暑い日だった。体温がすごくあるように感じる。
10分の休憩時間に俺は水道に向かった。
その途中の渡り廊下から、すぐ近くに弓道場が見える。
森山先生は弓道の経験者で顧問をしている。
今日は水曜日、森山先生が弓を引く日。
水曜日の休憩時間は決まって弓道場を眺める。
先生が袴を着て、弓を引く姿はとても綺麗で吸い込まれる。
「水川―、何見てんの?」
中学から一緒にバスケをやっている、月野そらが声をかけてきた。
「うーん。弓道場。珍しく・・・先生が、引いてる・・・から、さ・・・」
ドサッ
「おいっ!水川!?」
俺は先生の姿が、闇に吸い込まれるように真っ暗になって、ただ、背中にコンクリートの冷たさを感じた。
「・・・んっ・・・。」
目が覚めると、目の前に広がった天井の白さが、やけにまぶしく感じた。
「お!起きたか。大丈夫か?」
「・・・せんせ、い・・・ごめんな、さい。せっかく、弓引いてた、のに・・・。」
俺は先生の姿に驚きながら、声を振り絞って先生に謝った。
バスケ部の顧問が会議でいなかったこともあり、俺の側には森山先生がいた。
ああ、迷惑をかけてしまった・・・。
「気にすんな。大丈夫。
熱中症かと思ったら違うみたいだぞ。熱も少しあったみたいだが何で、休まなかったんだ?」
俺を心配する、優しい声が耳を包む。
あぁ、なんて心地良いんだ・・・。
「やっぱり、熱あったんですね。どーりで、暑いと、思ったんですよ。
俺、こんなんでも、一応スタメンだし、ちょっと頑張っちゃったんです。」
自分でもわかるくらいにスラスラと言葉が出る。
焦っているのか、弱いトコロを見られて、意地を張っているのか・・・。
「そうか、でも自己管理くらいしっかりしなきゃだめだぞ。
みんなも心配してたぞ。モテるんだな。」
少し口角を上げて話す、森山先生のその言葉に嫌な気持ちになった。
これ以上先生の口からそんなこと聞きたくない・・・。
俺は寝たふりをした。
9月1日。
「テスト返すぞー、順番に来ーい。」
森山先生が数学のテストを返し始めた。
「せんせー今回難しかったんだけどー!」
クラスの元気な女子が先生を少しだけ困らせる。
「そんな事なかっただろ?俺はいつも簡単に作ってるぞ。」
楽しそうだな先生も、みんなも。
「みずかわー。」
俺の名前を呼ぶ。
「はい。」
1年もたった。名前くらいは覚えてもらえたのだろうか・・・
先生が俺を呼ぶのはテストの返却のときくらいだし、この前倒れたときだって呼んでくれなかった。
「・・・水川、大丈夫か。ほれ、テスト。水川は今回も100点だ!」
先生はこんな時でも俺の顔を見ない。
「えー!すごい水川くん!!」
クラスはまるでクラッカーの糸を引っ張ったかのように盛り上がった。
「・・・今回も、」
今回も、って言ったって事は俺の事覚えてくれたのかな?
でも名簿見ればいい話だし。
俺の事覚えてますか?なんて直接聞くわけにもいかないし・・・。
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