嘘つきの本音

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嘘つきの本音

 駅からどれくらい離れただろうか。歩く度、腹の底に響く轟音が近くなってる気がする。 「なぁ、晶っ……どこ行くんだよ?」 「……すぐに分かるさ」 「?」  雑草の生い茂る斜面にあった石階段を上がり切り、辿り着いたのは、河川を望む広い堤防の上だった。そこに2人で並んで立った瞬間、向こう側の街より奥から、大きな花火がドーンッ!と空へと花開いたのだ。 「!……すげぇ……キレイだ」 「だろ?さっき、駅のとこで地元の人に教えてもらったんだ。ここなら花火が良く見えるって」  そう言われて見れば、周りに地元民らしき人達の姿もちらほらと見受けられる。だけど人々の視線は前方に上がる花火に向けられており、誰も俺達の存在を注視する人はいなかった。  だから、晶が大きめの声で喋っても誰も振り向かない。 「花火大会、毎年一緒に見に行ってたけど、今年は見逃してたからさ。ここで悠馬と見れねぇかなぁって思ってたら……お前が現れて、マジで嬉しかった。運命って感じ」 「……なにそれ……大袈裟」 「そうか?でも、嘘じゃねーよ。本当だから」  ……知ってる。晶はいつだって、本当の事しか言えないバカだから。  先程まで手首を掴んでいた晶の手は、いつの間にか俺と指を絡めるようにして繋がれてい。それも、自然とそうやって繋いでくるから、俺も暫くの間は気が付かなかったのだが。  ……晶の手、熱いな。  俺は花火を見上げながら、意識だけを手元に集中させてその熱を確かめる。いつもなら照れ隠しに振り払うのだが、今はなんとなく、彼に甘えたい気分だった。  握った手に少しだけ力を入れて、俺は隣りに立つ晶の気を引く。そして、こちらを見た彼の手を更に強く引いては、花火の轟音の合間に耳元で伝えた。 「晶、俺さ……今フリーだから」 「へ?」 「さっき彼氏と別れて来た。だから……恋人募集中なんだけど」 「!」 「でも、もし俺と付き合いたいってバカな幼馴染みが居たら……そいつの事は、一生離してやるつもりなんてねぇから」  ニヤケながら、俺はやっと覚悟が決まったとそんな台詞を口にした。  素直じゃないけど、俺にとっては成長の言葉だ。もう好きじゃないなんて、自分にも晶にも嘘はつかない。  だって、晶がずっと一緒に居たいって言ってくれたから。愛してるって言ってくれたから。だからそれを信じてみようと、俺はこの手を引いたのだ。  ほら、早く返事しないと最後の花火が上がっちゃうよ。フィナーレは連続した花火が盛大に上がるから、どんなに側に居ても大声を出したって人の声は聞き取りづらいんだから。  晶もそれがちゃんと分かってるのか、すぐに俺の耳に唇を寄せると直球ストレートを投げるのだった。 「悠馬、好きだ。ずっと俺の側に居て」 「……ん、分かった」  最後へ向けた、打ち上げ花火の連投が始まる。大きな音と共に様々な花火が河川の空を彩って、川面にもその色を反射させていた。  だけど今、俺の目に映っているのはドアップの晶の顔だけ。  一瞬息を止めると、一瞬だけ唇同士が重なる。  鼓膜にはもう花火の轟き音しか届かなかったが、彼の口の動きだけで、何を言われたのか俺にはすぐに理解出来ていた。  “帰ろう”  そう言った彼に、俺は頬を赤くしながら頷く。  花火が終わった直後に俺達はまだ人の少ない電車に乗って、家に帰り着いたのが夜の21時頃か。そこから一旦それぞれの家に戻っては、軽く夕食を食べ、シャワーを浴びてから、今夜は晶の家に泊まると父さんに言っては家を出た。  正直、今の俺は浮かれている。ずっと晶の事を好きだったくせに、その気持ちにフタをして、自分でさえも見てみぬフリをしてきたのだ。このまま俺が知らないフリを続ければ、晶とはこれまで通り、幼馴染みとして長く一緒に居られると思っていたから。  だけど、変化を望まなかった俺に彼は「愛してる」と言ったんだ。先の事は分かんないけど、俺とずっと一緒に居たいと、そう言ってくれた。嘘をつかない晶の言葉は、俺にとっては何よりも信用出来るものだから……俺も彼自身を信じてみようと、そう思ったのだ。  その為にはまず、俺が素直にならなければならない。自分を隠す為にいつも強がりな態度を取っていたから、少しずつでも甘えられるようにしていかないと……彼は元々ノンケなのだから、いつ女子の方が良いと愛想をつかされるか分からないから。  俺はそんな覚悟と共に晶の家へと向かう。と、玄関の外に人影があり、少しビックリしては足が竦んでしまった。 「な、なにやってんの?こんな所で」 「ん?悠馬が来るの待ってた」 「……虫に食われるぞ」 「ちょっとくらいはまぁ、別に。……それより、早く部屋行こうぜ。母さんもう寝たから」  小さな声でヒソヒソと。まるで密会している恋人のように晶に手を取られては、既に電気の消えた家の中へ招かれる。  おばさんの寝室は1階で、ヒーリングミュージック?というゆったりとした音楽を流しながら寝ているらしい。それに、彼の父親は仕事柄、出張が多くて今日も不在のようだ。  ほら、足元……気を付けて、と、スマホのライトで階段を照らしながら晶が先に上がって行く。その後ろを俺はピッタリと付いて登り、誰にも見付からないよう、静かに2階の部屋へと入った。
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