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小話集②懲りない男
とある体育の授業中。
「なぁ悠馬、お前、晶が最近ハマってる夜のオカズって知ってる?」
「え、なに急に。そんなの知りたくねーけど」
「まぁまぁ、聞けってば。ビックリするから」
そう言う佐竹は、肩を組みながら俺の耳元でヒソヒソと話し出す。
今日はグラウンドでサッカーの授業だが、俺と佐竹のチームは只今休憩中。代わりに、晶と小野屋のチームがボールを追い掛けては試合をしていた。
そんな中で暇を持て余していた佐竹が、何を思ったのかそんな事を言って来たのだ。まぁ、男子高校生の猥談なんて日常茶飯事だから珍しくも無いのだが……晶の、それも幼馴染みであり恋人の夜のオカズと聞かされては気にもなるというもの。
俺は興味がないフリをしつつ、佐竹に寄っては話しの続きを待った。
「……この間さ、晶にスマホ借りて、たまたま指が滑ってスライドしちゃった訳。んで、とある画像が1枚出て来たんだけど……」
「……けど?」
「なんか、すげぇマニアックでエロい画像でさ……あー、なんか、話し振っといてあれだけど……口にすんの恥ずかしくなってきちった」
「いや、そこまで言ったんなら教えろよ。逆に気になるだろ」
え、なに?どんなエロい画像で抜いてんだよ。ほぼ毎日俺にセクハラみたいな事してんのに、エロい画像って……。
やっぱり男の俺では物足りなかったのか。何だかちょっとだけ悲しい。
後でこのネタを使って晶をイジメてやろうと思ったが、佐竹がやっと教えてくれたそれは、俺にも聞き覚えのある内容だった。
「なんかさぁ……あれだよ。こう……お尻のドアップ?でさ、アナルセックスの最中の写真なんだと思うけど……で、その写ってるお尻の肛門の横に、エロいホクロがあんのよ」
……肛門の横に、ホクロ?
「!……あのバカ」
「へ?」
「いや、こっちの話し。……つーか、あんま人の性癖言いふらさない方がいいぞ。佐竹だって嫌だろ、他人にバラされんの。晶も同じだと思うしさ」
「ま、まぁ……そうだよな。悪かった。んじゃあ、これは悠馬と俺の秘密ってことで……」
「分かった。誰にも言わない。お前も、絶対に誰にも言うなよ。絶対だからな」
「?も、勿論……言わねぇし」
あまりにも俺が強く念押しするから、佐竹も少し戸惑っていた。
だけど、これは本当に絶対口外されたくない話題なのだ。
なんで俺がここまで晶の持っていた画像を庇うのかというと……遡る事、3日前。
「……っあれ?悠馬、もうイったのか?」
「あぅ……アっ……、待って……いまイってるから、あ……っ」
学校から帰り、晶の部屋でセックスしていた時の事。
ベッドに四つん這いになり、バックで後ろから突かれていたのだが、俺が先に達してしまったのでその体勢のまま休憩を要求したのだ。
晶は俺が落着くまで律儀に待ってくれていたのだが、何を思ったのか、気付けば背後でシャッター音がして慌てて振り返った。
「な、なに……?」
「いや……前から思ってたんだけどさ、こんなとこにエロいホクロがあるんだよ」
「は?」
「で、俺のが挿った状態のこの絵がすげぇやらしいから、オカズ用に1枚と思って」
平然とした顔で言うので、俺は怒りと恥ずかしさで思わず叫ぶ。
「な……なにバカな事言ってんだよ!消せ!今すぐ!」
「え、いいじゃん別に。俺だけが見るんだし。絶対変な事とかには使わないから」
「さっき!オカズ用とか言ってただろ!いいから消せってば!」
「なにがダメなんだよ?恋人で抜くんだからいーじゃん。……つか、もう元気なら動くぞ?俺、まだイってねぇんだから」
「あ、ちょ、待って……ぅああア!」
スマホを放り投げた晶は、話しを反らしつつ再びガツガツと奥を突いて来る。
その後も何度もイかされてしまい、疲れ切った俺がそのまま寝落ちしたので撮られた写真の事をすっかり忘れてしまっていたのだが……。
体育の授業が終わると、俺はすぐに晶を捕まえては校舎裏まで連行した。そして、さっき佐竹から聞いた話しを確認する為に鬼の形相で睨んでやる。
「おい、バカ晶。あの写真、消せって言ったよな?」
「あの写真?」
「とぼけんな。一昨日の……その……」
「ああ。ハメ撮りしたやつ?」
「ハメ……まぁ、そうだけど……」
ハメ撮りって……言われてみればそうだけどさ……なんか、そう言われると急に恥ずかしくなって来た。
不意をつかれて赤くなったが、ここで怯む訳にもいかない。
俺は自分よりも大きな幼馴染みを壁に追いやると、改めて睨んでは凄んで見せた。
「お前、誰にも見せないっつったじゃんか。でも、佐竹がたまたま見たって言ってたぞ」
「あー、なに?佐竹のヤツ、悠馬に言っちゃったの?」
「は?なにお前……まさか話したのか?」
晶の事だから、つい口が滑って喋っちゃいましたとなるのは十分に有り得る事だ。
しかし彼は、違う違うと首を横に振り否定をして来る。
「悠馬が付き合ってる事は秘密にしたいって言うから、誰にも話してねぇよ。ただ、画像見られてコレなに?って聞かれたから、夜のオカズって答えただけだし」
佐竹があの画像欲しがったけど、ちゃんと断ったんだぜ?と、意味の分からないドヤ顔までされる。
多分、佐竹にはあの画像が男女のソレに見えていたのかもしれない。だけど友達に恋人とのハメ撮りを見られるのは恥ずかしい、この気持ちをどこにぶつけたら良いのか考えると、やっぱり元凶である晶であったて。
俺は彼の体操服の胸倉を掴むと力いっぱい引き寄せては驚く晶の口に軽くキスをした。
「!」
「……晶、あの画像消せ。そんで……し、シたくなったら……1人じゃなくて、ちゃんと俺を呼べよ。……分かったか?」
とりあえず、今回の餌はこんなもんでいいか?黒歴史が残るよりかは遥かにマシな選択肢のように思うけど……。
体操服から手を離し、校舎へ戻ろうとした時だった。今度は晶に捕まって、腰を抱き寄せられてはキスをされたのだ。
「ん……悠馬、」
「……な、なに?」
「……俺が会いたくなったら、夜中でも呼んで良いの?迷惑じゃねぇ?」
いつも突っ走ってるオオカミが、今日はちょっと大人しい。と言うか、しおらしい?俺が画像の事で怒ってるからか、下手に出ているだけかもしれないけど。
とにかく、彼があまりらしくない事を言うので、俺はその頭を軽く撫でては励ますように言ってやった。
「……可能な限りは付き合ってやるよ。迷惑じゃねーから、そんなしょげんな」
項垂れている獣耳と尻尾が見えそうだ。
俺は「よしっ!」と言うと、晶から離れて歩き出す。
「この話しはおしまい!そろそろ戻るぞ。チャイム鳴っちまう」
「あ、悠馬!」
「ん?」
呼ばれたので、立ち止まって後ろを振り返る。と、晶がさっきとは打って変わって満面の笑みを浮かべては、唐突に「愛してる」と言うのだった。
だから俺は目を反らし、無言で再び歩き出す。
「え、ちょっと待ってよ悠馬!」
慌てて追い掛けて来た晶は、隣りを歩きながら俺の顔を覗き込んで来る。
「悠馬は?俺の事どー思ってんの?」
「……うっせぇ」
「えっ」
「……学校で言うかよ、バカ」
そう言いながら、逃げるように早足で進むのだ。
こんな甘い雰囲気は苦手なんだよ。まだちょっと、俺にはハードルが高い。
最近やっとベッドの中で甘える事が出来るようになってきているのだ。学校で甘い台詞なんて、絶対無理に決まってる。
俺はしつこい晶の脇腹に肘鉄を食らわせながら、そのまま逃げた。
しかし、彼が例の画像を消したのか確認するのを忘れていたが為に、1週間後に今度は小野屋によって同じ事案が発生したのは言うまでもない。
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