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小話集③長い1週間
「なぁ、悠馬。前から聞こうと思ってたんだけどさ」
「んー?なに?」
「そのスマホに付いてるチンアナゴって、どっかの水族館のやつ?」
晶はコンビニで買った、色合いが独特の紫芋プリンを食べながらそんな事を聞いて来る。
その隣りでスマホを弄っていた俺は、幸とお揃いで貰ったソレを掲げて見せた。
「これ?そうだけど……」
「行ったのか?水族館。暗いとこ苦手なくせに」
なんだか棘のある彼の言い方に、俺は子供っぽくすぐにカチンと頭にきては少し意地悪な返し方をする。
「別に。1人で行ったんじゃなくて、前付き合ってた彼氏とデートで行ったんだし。暗くってもくっついてれば怖くねぇもん」
「くっついてって……つーかずりぃ。俺も悠馬とデートしたい」
本当は、水族館でくっついていたなんて嘘だ。足元は明るかったし、暗さなんて気にならない仕掛けも沢山あったから怖くはなかった。
プリンを食べ終えると、スプーンを空の容器に突っ込んではテーブルの端へと追いやって、晶は俺の方へと身を乗り出して来た。そのまま至近距離でジッと見つめられるもんだから、俺は若干身を引いては嫌そうな顔をしてみせる。
「……なに?お前、ちょっと怖いんだけど」
「え、なにが怖いんだよ?俺まだなにもしてねぇんだけど」
まだってなんだよ?なにかする気なのか?
俺はちょっとずつ逃げながら、適当に話しをする。
「……てか、晶にそんな発想があった事のがビックリだし。デートとか今更だろ」
「ひどっ!俺をなんだと思ってんだよ!俺だって恋人と出掛けたいし!」
「……だってお前……」
「なんだよ?」
「……エロい事しか考えてなさそうって言うか……」
「うわっ!ひでぇ!まぁ、確かに?今もちょっとムラムラしてっけども……」
「してんのかよっ!」
「だ、だってそれは悠馬が悪い!お前が可愛いからっ」
「わっバカ!のしかかってくんな!」
勢いで押し倒され、床に軽く後頭部をぶつける。
このままではマズいと、俺は晶を睨んではダメ出しをしてやった。
「このっ……発情オオカミ!そういうとこだからな!なんでも素直に行動すれば良いってもんじゃねーんだぞ!」
「は?なにが」
「お前が毎日毎日エロい事して来るから、俺は尻が痛い!チンコも痛い!だからたまには休ませろ!」
勿論、尻やチンコが痛いなんて嘘だ。毎日セクハラはされるが、挿入までするのは週に2、3回だし。
それでも晶は俺の言葉を真に受けると、
「え、マジ?」と急に慌てだす。
「わ、悪かった……そうだよな。俺よりも悠馬の方が負担大きい訳だし……」
お?コレは効果絶大か?
晶は俺の手を引っ張って起こしながら、側に座り直すとしょんぼり眉をハの字にする。
「……分かった。ちょっとは我慢して、悠馬との健全なお付き合いを検討いたします……」
「で、出来るのか?」
「……頑張る」
一気にテンションが下がる晶が、何だか不憫に思えてくる。
いや、でもなぁ……晶は本当に少しは控えた方が良いと思う。今はまだ体力があるから良いけど、このまま好き勝手にさせていたらいずれ調子に乗って俺が潰されかねないからな。
とりあえず、ずっと我慢は俺的にも寂しいので、1週間セックス禁止というものを2人でやってみようという事になった。
1日目。日曜日。
晶がデートに行きたいと言っていたので、映画を観て、ランチして、ショッピングをしてはゲーセンで遊んだ。特に今までと変わらない遊びルートにも思えたが、薄暗い帰り道では手を繋がれて、不覚にもちょっとときめいてしまった。
そして家の前で別れる際は、晶がクレーンゲームで取った大きなオオカミのぬいぐるみ(めっちゃポップで可愛いやつ)を俺に押し付けて来ては「あげる。プレゼント」と、ちょっと照れながら言うのだ。これには胸がキュンとしてしまい、俺も赤い顔で「ありがとう……」と呟く。
なんだ。晶でもこんな事が出来るんじゃんと少し見直した瞬間だった。
2日目。月曜日。
「悠馬ぁ〜!宿題の存在すっかり忘れてたぁ!助けてぇ!」
「……知らねぇよ。小野屋に見せてもらえば?」
「いや、小野屋は佐竹に見せてるから……」
「……………」
「……ダメ?帰りにジュース奢るから!頼む!」
「……アイスも付けて」
「了解です!ありがとうございます悠馬様!」
3日目。火曜日。
今日は野菜の特売日だから、荷物持ちにと晶を連れてスーパーへ。これも立派な買い物デートだと俺が言えば、彼は少し首をひねって「これってデートなのか?もはや夫婦の領域だろ。あ、もしかして将来の為の予行練習とか?」とふざけた事を言うので、俺は無言で彼の背中を割と強めに殴ってやった。
買い物が終わって荷物を家に運び込んでもらっても、晶は俺に盛るわけでも無く珍しくカレー作りを手伝ってくれたりして、夕飯まで一緒に食べたくせにそのまま帰ってしまった。
4日目。水曜日。
「悠馬、今日は放送委員会の当番だっけ?」
「そーだけど」
「……絶対なにもしないから、着いて行って良い?昼、一緒に食べたい」
「……別に良いけど……マジでなんもすんなよ」
「分かってるよ。マジでなんもしない。俺はただお前と一緒に居たいだけだから」
「……………」
「……え、急に顔赤いけど、大丈夫?」
「うっせぇ。大丈夫だよ」
「そ。じゃあ早くいこうぜ」
……本当に何もしないんだ。偉いってか、逆に怖いよ晶くん。
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