コハク伝

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【 コハク語り 】  おれの名はコハクという。ほんとは漢字があるのだが、むずかしい漢字だから、何度みてもおれは忘れる。名前はコハクなのだが、おれはまだほんもののコハクを見たことがない。それは宝玉みたいなもので、あわくすきとおる茶色のきれいな石だとルリが言っていたから、たぶんそうなのだろう。ところでおれの毛の色は茶色だ。だからそこのところだけはすこし、ほんもののコハクと似たのかもしれない。  年は十四。しかしほんとうに十四かは知らない。おれは拾い子だ。つまり捨てられたのだ。おれを拾ったイナリさまがおまえは今年で十四だというから、たぶんそうなのだろう。おれは数は苦手だし、むかしを覚えるのも苦手だ。でもイナリさまは数は得意だしむかしのことは何でも覚えている。だからイナリさまがおまえは十四だというならおれはきっと十四なのだ。  さいしょに言っておくと、おれはニンゲンではない。キツネだ。しかしただのキツネではない。ヨウコだ。ヨウコという漢字もむずかしいから、おれは見て覚えてもまたすぐわすれてしまう。
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