コハク伝

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 ヨウコはヨウカイの一種で、ふつうのキツネよりはずっとえらくてかしこい。体もずっと大きい。おれはヨウコの中ではアタマは悪いほうで、力の強さはルリよりも少し強くて、ルリの姉のヒスイよりは弱く、クロガネとくらべても少し弱い。おれたちの上に立つイナリさまはいちばん強くてアタマもすごくよいから、おれとはくらべることもできない。  イナリさまはキヨの都をみおろすシチジョウ山というところにいる。山の上に、ものすごいゴテンがあるそうだ。ゴテンというのは城みたいなものなのだが、城よりももっときれいな場所らしい。おれはまだ一度もゴテンに行ったことがない。  そのシチジョウ山のゴテンからだいぶ北に行ってそのあと東に行ったところに、オーミというおおきな国がある。そこにはサカモト城という城がある。アケチマンシューというトノサマがそこに住んでいるのだが、イナリさまは、さいきんその男のことがキライになった。なんでもその男はだんだんイナリさまの言うことをきかなくなって、好き勝手にカネをもうけたり兵をふやしたりして、ことあるごとにイナリさまに逆らうのだそうだ。  だからイナリさまは、このまえの四月、ミノの国のトヨオミヒヨシデという別のトノサマに命じて、オーミの国を攻めさせた。ミノとオーミはセキガハラという広い原っぱで何か月もはげしく戦っていたが、とうとうミノが勝って、アケチマンシューは負けて西に逃げもどった。ミノはそのままオーミの国じゅうを攻めて、行く先々で勝って勝って勝ちまくった。  さいごに残ったのがサカモト城だ。サカモト城はミノの兵に囲まれて、それでも何か月もまだ負けずに戦っている。アケチマンシューというトノサマはとてもしぶとくて、なかなか負けないのだそうだ。だからおれとクロガネが、サカモトまで行くことになった。
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