コハク伝

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 夜明けまえに、サカモトについた。サカモト城は町を見下ろす山の上にあった。山のふもとを、ミノの軍勢がびっしりと囲んでいる。となりの山の上からそれを見ると、黒い虫のむれのように見えた。 「見ろよ、あんだけ数がいてまだらちがあかねーんだ。ったくニンゲンってのはほんとに弱くてしょうもねーイキモノだよなあ」 とクロガネが言った。おれもそう思った。あれだけ数がいるのに、どうしてアケチマンシューの首がとれないのだろう。とても不思議だ。  二ンゲンのハダはとてもやわくて弱くて、ちょっとひっかくとすぐ血が出て死んでしまう。ニンゲンたちは、木や鉄でできたヨロイというもので肌をつつんで血が出ないようにしているのだが、そのヨロイというものも、じつはたいして強くない。おれたちヨウコがちょっとかむと、すぐにやぶれてけっきょく血が出てしまう。だからニンゲンたちは、ヨウコがとてもこわいらしい。おれたちヨウコはむだにニンゲンをこわがらせないように、いつもはニンゲンのすがたをしてニンゲンをだましている。ほんとうに戦いで必要なときしか、ヨウコの姿にはならないのだ。  だから今日も、おれもクロガネもニンゲンのオサムライのかっこうをしてここにきた。オサムライというのは兵と同じ意味だそうだが、おれは何となく兵よりもオサムライのほうが強くてかっこいい感じがするから好きだ。
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