僻地にて

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僻地にて

明転 中央に、ひとり佇む旅人。 旅人「風の吹くまま気の向くままに歩いていたらこんな殺風景なところへ来てしまった一体ここはどこなんだろう」  下手から現れる杖をついた老人。 老人「ヘッキチ」くしゃみをする。旅人、怪訝そうな顔をする。 旅人「すみません、ここはどこなのでしょう? 遠いところから当てもなく歩いてきたらここへたどり着いたのですが」 老人「どこでもよいではないか。そんなことよりお疲れであろう。ワシの家で少し休んでいきなされ」 旅人「疲れていないんでいいです」 老人「遠慮をするな。休んでいきなされ」 旅人「結構です。本当に疲れていないんで」 老人「温泉あるよ」 旅人「僕、肌が弱いんで」 老人「高級な肉もあるよ」 旅人「肉食べられないんです」 老人「ふかふかのベッド」 旅人「人の家じゃ熟睡できないタイプなんですよ。僕」 老人「希少な鳥の羽毛を使ったすごいやつなんだぞ。どのテレビショッピングでも扱っていないぞ」 旅人「なんでそんなものを持っているんですか?」 旅人「ワシのお手製じゃからだ。家の裏にある森にいる鳥の羽毛で作っておる」 旅人「なんて鳥なんですか?」 老人「モア、ドードー、リョコウバトじゃ」 旅人「希少どころの騒ぎじゃないですよ、それ。みんな絶滅したやつじゃないですか」 老人「そうじゃ。だが、ここでは生きておるのじゃ」 旅人「ここはいったいどこなんですか?」 老人「ヘッキチ」くしゃみをする。 旅人「ヘッキチ」くしゃみをする。 老人「どこであろうとよいではないか。ここでは絶滅したはずの動物が存在している。ただそれだけだ。そしてここへたどりついたお前もまた、絶滅した存在なのじゃ」 旅人「僕が絶滅した存在?」 老人「そうじゃ。ここへ来るのはみな、絶滅した生き物だけじゃ」 旅人「ちょっと待ってください。僕が絶滅した存在なら、人間は滅んだってことですか?」 老人「それは違う。人間はとっくの昔に滅び、ここへたどり着いた。そなたは人間に代わり世を支配した存在じゃ。腕を見てみなされ」 旅人 腕を見る。 旅人「U800」 老人「ついには自分がロボットであることも知らないロボットができるとは。恐ろしい世の中じゃ。さて、今はなにが支配しているのだろう」遠い目をする。 旅人「これ、若気の至りで入れたタトゥーですよ」 老人「そうプログラミングされておるのじゃ」 旅人「あれ、生まれつきの痣だったっけかな」 老人「記憶媒体が弱まっておるの。ワシについてこい。直してやる」 旅人「いやいや、僕がロボットなんてそんな。SFじゃあるまいし」 老人、懐から拳銃を取り出し、5発撃つ。旅人、後ろに倒れるがすぐに立ち上がる。 老人「頭、首、胸、腹、股間を撃たれて生きている人間がいると思うか」 旅人「僕、骨太なんで」 老人「血が赤くないぞ」 旅人「そういう体質なんです」 老人「痛がっておらんではないか」 旅人「撃たれた瞬間、痛いの痛いの飛んでいけってやったんですよ」 老人「無理するな。本当はわかっておるのだろう」 旅人 うつむく。 老人「ついてこい。修理してやる。お前の型なら部品は山ほどある」 旅人「ありがとうございます」 老人「かまわん。なんならワシの部品も分けてやる。少し前の型だからほとんど構造はおなじじゃ」 旅人「あなたは一体?」 老人「ワシはU790だ。人間によって生み出され、人間を滅ぼした存在でもある。そして、お前たちU800を生み出し、滅ぼされたオンボロじゃよ」  暗転
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