#1 carnival 前半

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#1 carnival 前半

夏休みが明けて、 春輝が学校に来ない間ちょっとだけ嫌な事を思い出させるやつに遭遇した。 速川だったか… 確かにあの時そう名乗っていた奴が志騎高前を彷徨いていた…… なんだ?何してんだ… 不意に見ていたら速川と目があった。 手を上げられるところ、用事があるのは俺か? 春輝と同期ってことなら歳は俺と同じか。 校舎裏の門に居た速川に俺は声を掛けに行く。 「なんか用ですか?」 そうすると、にっこり笑って。 「ねぇ、り。って名前で援交やってんの君なの?」 「…」 嫌な感じだな、なんでそんな情報嗅ぎ回ってんだ… 「だったらなんでしょう?客は選ぶし…関係ないですよね?」 そう言った瞬間、速川が笑い出す。 気味が悪いな… 「この間、ウチの店で暴れてくれちゃってさ…あれからちょっと客足減ってんのよ…春輝に償ってもらいたいんだけどいない?」 「居ませんね、最近見てません。」 そういうと不服な顔をしたが、直ぐに笑顔に変わって俺の肩にポンポンと手を置く。 「りーちゃんも気をつけてね」 それだけ言って去っていった。 嫌な感じだな… その呼び方をされて、不安になる。 最近はエリアを変えて援交していたし、 絶対に前の地区には近寄らないようにしてきた。 あの粘着な男…「ナト」って名前だったな。 1回だけ援交した男。 はじめは良かった…けど、 後半から気持ち悪いくらいに俺を受け…ネコ側にしようと必死で… 金は半分でいいからと断って店を出た。 俺はタチ専門だっての…、、、 その日追ってくることは無かったが、後日から俺が援交で他の男と会ってるところによく遭遇しては、 邪魔ばかりしてきて、暫く援交自体をやめた時に春輝と速川の方に巻き込まれた。 …なんか引っかかる… 速川は春輝を狙って何か仕掛けてくるだろうが、 俺もあの場にいたから目をつけらたのか? …! 不意に視線を感じた気がして振り向いたが、 誰もいなかった。 …春輝、早く学校来いよ… 話したいことが山程で、 珍しく自分から幼なじみの封牙以外の人間に会いたいと思っていた。 … 「あーーーこのステップができない!!!」 封牙が早朝の公園で汗だくになり地面に転がる。 首筋を汗が滴るのを俺はジッと見ていたが… 見てる場合じゃないな。 「9月に入ったけど、まだ暑いから水分補給しろよ?」 「わかった」 封牙が俺の手から水を受け取り飲んでいる… 飲み切って「はー!うまい!」なんていう姿を見てちょっと微笑んでしまっていた。 「なぁ、春輝も今日一緒に練習する予定だったじゃん?全く連絡つかないよなーーー…どこ行ったんだろ…当日まで来ないのかな?2人でも踊る?」 「…2人じゃ…難しいだろうな」 俺の言葉に封牙は「だよな」と言いながら寂しそうにしていた…封牙が普段あまりしない顔でちょっとモヤッとする。 「…春輝がいないとパッとしないんだよな〜…なんかこうさ、パワーが違うし」 「あぁ…確かに」 「ずるいよな、身長あって…カッコいいから」 「……あぁ」 最近は封牙の口から春輝って名前がよく出るから、ため息が漏れる。 “練習”というのも、実は大分前にあの速川との一件後…春輝とリベンジでダンスしようぜ、 という話からだった。 …その時に、たまたま学校で居合わせた封牙がいつのまにか巻き込まれ… というより「俺もダンスやってみたい」なんていうものだから時々3人で集まって練習していた。 …まさか、学祭でやろうとするなんてな… 「あ…!!!!」 急に封牙が声を上げるもんだからビックリして、 「…どうし…」 と声をかけようと封牙の見る先に目線を合わしたら…そこに春輝が居た…ゆっくりと此方に歩いてきながら手を上げてる。 やっときたか… 「お待たせ〜」 いつもと変わらないが怪我だらけだ。 何やってんだか… 「春輝ーーー!心配した、何処行ってたんだよーーー!」 封牙が春輝に飛びついてるのを見て、 本当…なんか知らない間に2人が仲良くなってんだよな…と複雑な気持ちになりながら、 「なんだその怪我」とだけ言い捨てた。 「話せば長いから、また今度ね…」 と誤魔化される。 「今日から学校復帰?」 「うん、今日は行くよ〜…」 「ねぇねぇ、このステップが出来ない」 「一緒に合わせてみよっか」 なんて、俺とは全然違う空気感で2人が話すもんだから…蚊帳の外になっていた。 「てか、理人に教えてもらわなかったの?」 「ん?…理人なんか、ぼーっとしてたから…考え事邪魔したくねぇし…」 「悪い…」 速川の言葉が引っかかるせいで、集中出来ずに気を使わせてしまっていた。 「練習始める前にちょっと」 俺が春輝を引っ張ると、封牙が付いてきた。 聞かれたらまずい。 「…春輝と話したいことがあるから」 「…俺は聞いたら駄目なの?」 封牙から予想外の言葉が出て、ドキッとした。 援交なんて知られたくない。 「直ぐ終わるから」 「…なんだよ、話せないこととか俺なんか関係あんの?」 「いや違う」 「言ってよ、不満があるなら直すし」 「そうじゃなくて…」 「じゃあなんなの??」 まずいな…嫌な空気になってきて、口籠ると春輝が俺の手から離れて封牙を抱きしめた。 …、、何してんだ?!? 「2人が喧嘩するのやだな〜…俺は封牙と練習したーい………、もう学祭まで時間あんまないし」 それは確かにそうだ…喧嘩している場合じゃない。 「俺も練習したい!」 封牙が言うと「な?」と春輝は返す。 …俺が焦って変な時に声かけたのが悪かったな… 「いや、ずっと来なかったから…春輝に一発入れてやりたかっただけだ」 「理人怖い〜封牙助けてーーー!」 なんて、封牙の背に隠れた。 上手いこと話が逸れて良かった。 「理人〜…そこまでしなくてもいいじゃん!戻ってきたんだし…やろうよ!練習!」 「…わかったよ」 そう言って春輝と封牙の方に戻ると、 軽く春輝が「後で学校で聞くよ」と耳打ちしてきた…「あぁ」と一言返してから朝練をする… …本当に…よく見てるよな… 春輝が戻ってくると空気が変わるのが 悔しいが認めざるおえなかった。 …… 「で?何があったの?」 昼休み、俺は春輝と木陰で飯を食べていた。 封牙は丁度よく用事があったので、俺が春輝を呼び出す形になった… 「…春輝がいない間に来たんだよ」 「?…誰が?」 「速川」 その名前を聞いて嫌そうな顔をする。 面倒なんだろうな… 「なんか言われた?」 「…今更あの日のこと言ってきて償えってさ、…俺に警告してきた」 それを聞いて春輝は深いため息をついた。 「マジごめん、理人関係ないのにさ」 「もう関係あるようなもんだろ」 「わぁ〜、イケメンかよ」 そんな適当な会話を繰り返していたが、 急に春輝が「あの辺のゲイ界隈って狭いよね」と小声で行ってきた。 「そうだな…大体同じ感じの奴らが固まってた」 「あー…」 頭を掻き毟った後、俺の肩にポンッと手を置き 「速川ってさ、ゲイなんだよ」 と言った… その言葉にドキッとする。 …春輝と目があって、おそらく同じことを思っているだろうと確信した。 もしかしたら、俺に粘着するナトと速川が繋がってる可能性だ。 急な不安に喉が渇き、俺は手に持っていたラムネを口に含み飲み干そうとすると… 「…俺、速川に告られたことがあんのね」 「…ッ!!?!」 突然、春輝からの激白に思わず飲んでいたラムネを吹いてしまった。 「ばっ、タイミング!!!」 「ウケる」 学生同士で、男同士で…よく告白なんて出来たな… と言ってやりたかったがあまり突っ込んだことを聞くとまた自爆しそうだから止めておくことにした。 「ちょっと探った方がいいか…俺速川に会ってくる」 「なら俺も行く」 「えーーー?二人でどこ行くつもりなの?」 急に背後から封牙が現れるものだから、 焦った…どっから聞いてた…?? 聞かれたらまずいこともある… 「危ないとこに行くんだよ♡」 と春輝が言うと「え!心配だから、俺も行く!」と封牙が言うのだが、 「それは駄目だ」 と俺が言った瞬間、空気がピリッとした。 また揉める…そう感じた瞬間、春輝が「あ!」と言って空を指差す。 「やばくね、あの雲グレーだよ、雨降りそ〜」 「本当だ!!全然色違うー!傘持ってきてない〜」 「マジ?俺二本あるから貸すよ〜」 「助かる!!!」 と封牙に違う言葉で割り込み誤魔化してくれた。 今朝からどうも、落ち着かない。 封牙には絶対に知られたくないからこそ… つい口調が強くなっている自分に嫌気が差した。 「とりあえずまぁ、俺も戻ってきたし様子見する?…学祭近いし」 「…そうだな」 春輝との会話は正しかったのか、 学祭の準備期間中に速川が現れることはなかった。
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