第4話

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第4話

(桐生)  手をふり払われ、俺は呆然と立っていた。  散々傷つけた記憶と後悔だけが残っている。  やっと皐月を探して、今日会って話ができると期待する自分がいた。  横目で何度も皐月に視線をおくる。変わらない、トゲトゲとした皮肉っぷりにほっとした。それでもほっそりとした体に、顔色だけが悪そうにみえる。目元には薄らとクマがあった。  振られたと耳にはいり、チャンスだと思った。  いましかない、とも思った。  どうしても三年ぶりの再会にしては短すぎて、納得がいかない。  そしていま諦めると、また、二度と会えない気がした。あの時と同じように皐月が突然いなくなった記憶が蘇る。  もう、手放したくない。  わるいと思いつつも、俺は震える皐月の手をずっと握っていた。
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