睦月という名の愛しい人

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中丸パンは街の中心部にある。ジャムパンとかクリームパンとかシベリアとか割と地味なパンを売る、昔ながらのパン屋さんだ。 俺のつとめる広報誌の会社にも定期的に依頼をくれるお得意さんだった。 『だった』 つまり過去の話である。 俺の同級生である中丸(2代目)が店を継ぐまではお得意さんだったのである。 中丸は俺と同じ学校なので、つまり三月の先輩でもある。 昔で言うヤンキー。田舎に一定数はいるやんちゃなタイプの男。 正直、中丸が死んでいようが、地獄に落ちようが、宇宙の塵になっていようが俺は興味ない。向こうもそうだろう。 ただ昔、学生だった時に俺と三月の関係を鼻で笑われたことがある。 『お前達付き合ってるとか本当?』 中丸とはほとんど話したことないのに、急にそう聞かれたから戸惑った。 そのせいですぐに返事は出来なかった。 『ああ、マジなんだ?』 その言い方がなんか偉そうでムカついた。 わざわざ俺のところへやってきて、それだけ言って帰っていったのだ。 思い出すと、今でもむかむかっとする。
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