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「久しぶりだね」
食卓に並んだ料理――味噌汁や肉野菜炒めを見てそう言った子供は、いつも通り楽しそうに食べてくれた。
夫も「おいしいね」とパクパク食べていく。
「ありがとう。こんな料理をおいしそうに食べてくれてありがとう」
真実を言わなきゃと、気が高ぶっていたからか、アーニャの目が涙で潤う。
ぐすりぐすりとする母アーニャに、子供が「どうしたの?」と心配する顔をした。
「お母さんね、隠してたことがあるの。最近の豪華な料理は、全部このペンのおかげだったの」
アーニャはグルメペンを机に置いた。
子供が「魔法のペン?」と目を輝かせ、夫はため息をついた。
「そんなことだろうと思ったよ。けど、金はどうしたんだ? あんなことができる代物は高いだろ?」
こくりとうなずいて、アーニャは洗いざらい話す覚悟を決めた。
「私のへそくりで買ったの。
けど、もうインクがないし、二本目買う金まではないわ。だから、もうあの料理は出せない。
魔法が使えないし、不器用な私では、今日のような料理で精一杯なの」
ごめんと、頭を下げ、閉じた目から涙が流れていく。
「魔法なんか使わないお母さんの料理のほうが好きだよ」
「えっ?」
顔をあげたアーニャは、目を見開いて子供を見つめた。
「俺もだよ」
ため息混じりの優しいセリフにアーニャが驚いた瞬間、夫に抱きしめられた。
「アーニャ、俺は君を愛している。魔法が使えない君をも、全てだ。
君がいつも頑張ってくれているのは知っているよ。だから、もう魔法を使えないことで独りで悩まないでくれ」
夫のぬくもりの中で、暖かな言葉を聞き、泣いていたアーニャの頬が緩んだ。
「うん、うん、ありがとう。
魔法なんか使わなくても、私は幸せな主婦だね」
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