魔法なんか

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 家に独りになったアーニャは、雨が降る前に庭の手入れをしたり、家の中を掃除したりした。もちろん、魔法を使わない手作業で。 「ふぅ……あ、やっぱり雨」  一段落してソファに座って外を眺めてみたら、シトシトと静かに降りだしていた。  アーニャはなにげなくテレビをつけてみる。 「三秒クッキング! 今日はカラメルの魔法をお教えいたします」  ハァと大きなため息を吐いたアーニャは、チャンネルを速攻変えた。 (魔法が使えないマイノリティのことは考えてくれないのだろうか……)  そう、アーニャは魔法を使わないのではない。使えないのだ。内なる力が備わってない数少ない人間なのだ。 (どうして私は魔法を使えないの?  使えないせいで、就職もできないし、魔法家電も使えないし、地味な料理ばかりしか作れないし……)  ぎゅっとつかんだエプロンに、涙がポタポタと落ちていく。  いつしか激しく窓を打ちだした雨の音が部屋を包みこみ、世界に独りだけ取り残されたような気になる。 「えー次の商品は、グルメペンです」  他のチャンネルに変えてからつけっぱなしになってたテレビから、通販の商品紹介が勝手に流れてくる。 「このペンで料理名を書くだけで……ほら! 角煮がポンと一瞬で出てきました。  これで料理魔法を覚えなくても、簡単に料理がでてくるのです。  しかもこの商品、魔法を使えない方でも使えるんです!」 「ええっ!」  テレビの言葉に反応したアーニャは思わず声をあげた。  合いの手をいれる女優が「スゴーい」とわざとらしく言う声をかき消すほど大きな声を。 「お値段は……」  その値段を聞いた瞬間、アーニャは固まった。夫の月給の三ヶ月ほどで、お高めであった。  けど、アーニャは拳に力を入れると、ドタバタと箪笥(たんす)へと走った。 (魔法を使えない私が、魔法と同じような力が使えるなんて、こんなチャンスないわ)  箪笥の奥をまさぐる。 「あった!」  取り出した封筒の中を確認すると、十分なお札が入っていた。  アーニャはすぐさま通販に電話をした。商品を秒速宅配の代引きで注文する。  数秒後には配達員が転送魔法で届けにきて、アーニャは代金を支払い、グルメペンを受け取ったのだった。
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