15人が本棚に入れています
本棚に追加
「わぁ。バイキングみたい!」
「今日はすごいなぁ」
「ま、まぁね」
ぎっしりと食卓に並んだ豪華な料理のかずかずに、子供がはしゃぎ、夫は目を丸くする。
ペンのことを隠すアーニャは、少しやり過ぎてしまったかなと、頭をかいた。
ポンポン出てくるのがおもしろくて、食べたいものを片っ端から書いてしまったのだ。
そんなアーニャに夫は少し気を止めた。が、「ね、お父さんこれ見て!」と子供に袖を引っ張られて、気は子供のほうへと向いていった。
楽しそうな子供と夫を見て、これで良いのだと、アーニャは自身を納得させる。
けれども、高額な商品を勝手に購入してしまったことは言いだせなかった。
それから料理はがらりと変わった。
宿のような朝食を出してみたり、食べたことがない海外の料理も気軽に味わえるようになった。
「あれ?」
そんな楽しい日々が続いたある日、終わりは突然やってきた。ペンのインクがなくなり、書けなくなったのだ。
ペンを再購入しようかと、アーニャは考えこんだ。
けど、もう使えるへそくりはない。
「言わなきゃいけないかな」
子供もまだ学校から帰ってこない部屋で独りつぶやくと、アーニャは顔をパンッと叩いて気合いを入れ、台所に向かった。久しぶりに料理をするために。
最初のコメントを投稿しよう!