演劇部

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はい、撤収して~! 埃っぽい舞台に出て私は頭上のピンスポットライトを見つめる。 眩しい。 高等部の先輩たちが装置を動かし始める。 私も友達と分散して手伝いに行く。 この一瞬は永遠だ。 次はB産業高等学校です。 用意してください。 客席の方向からアナウンスが聞こえた。 私たちは先輩を追って荷物を駐車場まで運ぶ。 B産観れないね~、仕方ないね~。 B産業高等学校には演技が上手な生徒さんがいるらしい。 みんな彼女を観たがっていた。 中等部の生徒は戻って観ておいで!観劇も勉強だよ! ほいほいと先輩たちに背中を押され、私たちは建物に戻った。 ホールに戻るとB産は地元を舞台にした三人劇を繰り広げていた。 どうやら恋愛ものらしい。 私は一人、そっとみんなの席から離れ一番後ろの座席に腰を掛けた。 お芝居を観たいのに、その気持ちとは裏腹に今先輩たちが終えたお芝居の音楽が頭の中で蘇ってきた。 音響、照明、衣装メイク、小道具、大道具・・・ 部室前で繰り広げた毎日の発声練習。 高等部の演劇大会なので中等部生徒は参加禁止。 しかし撤収だけは参加しても良いと言われていたし、何より人気劇作家の作品と有って、私たちは高等部の先輩の金魚の糞ごとく常に間近にいた。 私は照明を担当した。夢中だったので、このシーンではこのバミリにライトを当てる、このセリフでホリゾント幕を青に変える・・と私も覚えていった。そんな私を見て高等部の先輩が内緒でスポットライトを任せてくれたことがあった。 ライトを当てたとき、舞台とかっちり当たった。 その瞬間に腕がぞわぞわし鳥肌が立った。 センスあるね~とにこやかに話す先輩に私は満面の笑みで応えた。 友達は音響を担当し、ずっと音響用のCDを聞いていた。 音が無ければ作ればよいと、あらゆる小道具を使い音をテープに吹き込んだ。 衣装メイクを担当した友達は、シースルー素材の生地を手縫いでせっせとマントを作っていた。 立ち稽古では学校のホールを借りて何度も練習した。 私たちは青春の真っ最中にいるんだ。 ・・・そう思うと涙が出てきた。 私たちは永遠なんだ。 私たちが卒業しても、この気持ちは永遠。 私たちがいなくなってずっと先の未来、私たちを知らない後輩だけのメンバーでも、きっとホールが、部室が、衣装やテープたち、そして私が触ったスポットライトが覚えてくれているんだ。 先輩たちがいたことを。 私たちがいたことを。 そう思うと、涙が溢れてきた。 そしてこの泣いている私を、この会館はずっと覚えてくれるのだろう。 永遠に。 何故こんな感傷的な気分になったかは分からない。 けれど、ただ、泣きたかった。
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