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「私って、バカだな……」
そう、つくづく思う。
あのとき、"好き"と言える自信が、ほんの少しでも私にあったら、また違った未来があったはずなのに。
だが、いくら思ったところで結果など変わらない。ここにあるのは、彼だけが綺麗に切り取られた世界だ。
気付くと、曲は終わっていた。
無音の時間はズンと重く、私に容赦なく押し掛かってくる。部屋にひとりぼっちの私は、堪らず"再生"ボタンを押した。音楽が流れ出すと、あの頃の記憶が再び蘇ってきて、私はまた物思いに耽り始めた。例えるなら、大海原にでも放り出されたようで、しばらくは果てない時間を漂う予感がした。
二度とリピートできない青春は、そのすべてが愛おしい。過去を眺める私は"亡霊"そのもので、なんて無様なんだろう。
──こんなことになるなら、もっと好きって言っておけばよかった。
ホットミルクの香りが甘い。こんなに涙が出てくるのは、きっと金木犀の蜂蜜のせいだろう。
私は、もうとっくに知っている。
いくら夜が更けても、いくら歳を重ねても、この想いは眠らないのだと。
ー
D.C.
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