57人が本棚に入れています
本棚に追加
第1相談者
第1話はある悲壮感漂う家庭から始めよう。
「だから兄ちゃん、今度だけは信用してくれよ。今回飲んだら、きっぱりとやめる。おれだってもうどうにも手に負えなくなってるんだ。こうして電話したり、人と話すのにも酒がないと気力さえ湧かないんだ。明日の朝、千円でいい。それを最後に手首でも切るか、トラックにでも轢かれてみせる。な、兄ちゃん。俺なんて消えてなくなればみんな喜ぶだろ?」健次は半分呂律が回ってない。また深夜の2時だ。
「いいか、健次。もう何回目だ? 今のお前はダメ人間じゃないんだ、病気なんだ。死ぬ、とか脅かすのはもうよせよ。たのむから病院にいってくれよ」兄・原哲也はゆっくりと落ち着いた声で弟・健次に言い聞かせた。
「わかった。わかったよ兄ちゃん。病院へ行く。だから千円、千円だけでいいから、明日、駅前で待ってる」健次はいつもの場所を指定した。
「病院は生活保護で何とかなるだろ。もう少し渡すから今日はもう寝てくれ」哲也はうんざりした口調で電話を勝手に切った。
「健次―、健次―!」すぐ横のベッドで父親の雄一が叫ぶ。
「父さん!健次じゃなくて哲也だろ。俺はて・つ・や!」哲也は同じセリフを何万回、言っただろう。息子の顔も名前も忘れ挙句の果てには、長男の哲也でなく次男の健次の名前を呼ぶ。病気とはいえ、腹立たしいやら悲しいやら、哲也はそれでも辛抱して返事をするのだ。
「健次―、お前大学はどこに決めたんだ?」雄一の記憶は健次の大学受験で止まっている、ということらしい。
「はいはい、城東大ですよ、じょ・う・と・う!」哲也は答える。
「そうか、健次は医者はいやだって言ったからな」
「そうだね、父さん、まずは安心して寝ようや」哲也は何とかして父を寝かしつけたい
最初のコメントを投稿しよう!