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発散堂始めました。
新宿百人町の雑居ビル。今年から始めた『発散堂』店主の御手洗幸一は、ウクレレをポロンとかき鳴らしながら、夕刊スポーツ紙を広げて地方競馬の本命馬と伏兵馬を鼻歌交じりに探している。
冬も間近だというのに長袖のTシャツの上からアロハを羽織り、八分丈の麻のズボンに雪駄という格好は昭和の任侠映画のチンピラそのものを連想させた。
ふいに銭形平次の着メロが鳴りだす。
「はい、皆様のイライラ解決!発散堂でございます! ハッサン24、24時間受付中です!」御手洗の声はルパン三世のように軽妙で、小気味いい。
「あ、これはこれは祐希様、いつもご利用ありがとうございますー。ええ、ええ、なるほどー、それではいつものコースで、はい、五寸釘を? 二四本? 承知いたしました。一時間で参りますので、はい、例の場所。わかりました」御手洗は電話を切る。
「早乙女ちゃーん、仕事に出るわ。俺の仕事着用意して」御手洗が叫ぶ。
「はーい」バイトの早乙女菜月は腹筋ワンダーコアをやめて、クローゼットから青いオーバーオールの作業着をとりだした。
菜月は、日光で忍術修業を会得して新宿に流れ着いて5年。今年で25歳になる。その鍛え抜かれたスタイルと美貌はまさに峰不二子のようであった。
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