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 多分この歩道橋には不思議な磁場のようなものがあって、橋の真ん中までやって来ると、俺の足はいつも勝手に先へ進む事を止める。だから仕方なくそこからの景色を眺めているわけで、この日課に特別な意味があるというわけじゃない。  それでも夕陽は、変哲もない片側二車線道路を、ここまで赤く照らす。遠く向こうの連峰のシルエット。そこへ沈みつつある光が、建ち並ぶビルも、道も、行き交う車達も。吹いている風は、半袖のシャツには少し冷たかった。  大体の事が、いつの間にか通り過ぎていたりするものだ。退屈な一日。楽しみにしていた特番。高校で最後の夏。そんな当たり前の事を思い出して、少しだけ寂しくなったのも、たぶんこの夕陽のせいで、だけどこんな感傷も直ぐに通り過ぎていくのだろう。  そしてまた、どっかで思い出す。子供の頃の団地の公園の夕暮れ。あの景色と一緒になって。 ーーそんなものにどんな意味がある?  意味。理由。訳。何も考えたって、いつも最後にはそれがやってくるのだった。それが出てしまえばもう終わり。下らない、どうでもいい、しか残らない。  足の下を大きなトラックが通って行って、あまりの煩さに舌を打つ。錆びた白色の欄干を蹴飛ばせば、ぽぉん、とまぬけな音が鳴った。
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