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小学校
四月。桜舞う出会いの季節。
咲桜坂小学校一年一組の教室では入学したばかりの生徒たちの自己紹介が行われていた。
「一年二組、天野真琴。私の夢は公務員になることです」
なんて子供らしさの欠片もない自己紹介をした小学校入学後初めてのオリエンテーションで私はクラスの失笑を誘った。もちろん狙ってなどいない。
カッコ悪いだの夢がないだのクラスメイトはクスクス笑う。担任の先生も困り眉で気まずそうに笑う。
私は何か可笑しいことを言った?
皆が今言っている夢の方が将来なれない人の方が多いんだよ。高校生になれば公務員を目指してる方が笑われないんだよ。私への失笑から、次の子の自己紹介までの時間がとても長く感じられた。
もう、この時間はよ終われ!
「そりゃあんた、小学生がそんなこと言うからだよ」
帰り道、夕日が眩しい通学路を歩く隣で、双子の姉の天野実琴が呆れたように言う。
「高校生になれば、皆も夢は変わるよ。でも今は小学生だし」
「……実琴は将来の夢なんて言ったの?」
「ピアニスト」
にしし、と悪戯っ子ぽく笑う姉。
「小学生なら小学生らしく無邪気で傲慢な夢を語っておきゃいーの!」
生きていくには要領よくやらなきゃね、と発言する姉も私とは別の意味で子供らしくない。
「あ、でもくーちゃんは本当に夢叶えちゃうかも」
「くーちゃんが? たしか、お医者さんだっけ」
「そ、お医者さん。いいなー。目指すものになれる実力を持ってる子は選り取り緑で。早くも女子に「ステキ~」って言い寄られてたし」
くーちゃんこと運舟空は姉の実琴と同じクラスの一年一組。そして唯一同年代で私たち双子の区別がつく幼馴染だ。
お医者さんの家系でとても頭が良く、お父さんにも期待されてるみたいでいつも幼稚園でもドリルをやっていた。
小学生になるとテストがあるから楽しみだと入学前に意気込んでいたくーちゃんはカッコいいというより私にはヘンジンに見えた。
「くーちゃんだって小学生らしくないじゃん。なのに私だけ笑われてずるい」
ふくれる私を見て実琴が笑う。
「あんたその辺の駆け引きダメだもんね。ていうか皆そんなことで悩まないよ、考えてないし」
「実琴も考えてるじゃん」
「考えた上での『ブナン』を考えてるのさ」
よく分からないや。
私の姉は頭が良い。双子だから年だって変わらないのに、何年分も追い越されてる感じでなんか嫌だな。
「お互い、考えすぎな性分で大変だね」
実琴はうりゃー! とわしゃわしゃ私の頭を撫でまくる。こういうところは年相応なお姉ちゃんだ。
「落ち込んでんなー。明日の給食はカレーだぞ」
「カレー! 実琴と入れ替わって二人分食べていい?」
「図々しいやつめ」
軽く頭をはたく姉の手つきは優しくて、私の不機嫌だった感情は遥か彼方に吹き飛んでいた。
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