中学校

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 一週間ぶりの教室に入ると、黒板近くで喋っていた安城たちのグループが一斉にこちらを見た。  無数の瞳が好奇の視線をこちらに送る。 「なに? またお姉さんが乗り込んできたかと思ったら本人じゃん。懲りずに来たんだ」 「実琴は関係ないでしょ。私以外の人を巻き込まないで」 「あらやだ、私たちはあんたが休んだから代用品で我慢してあげたのに」 「代用品?」  その言葉を聞いて私の肩がピクリと動く。  駄目。耳を貸すな。  相手の挑発なんかにのっちゃ駄目だ。  私の反応を見て安城は楽しそうに笑う。グロスの塗られた苺色に輝く唇が歪んでいる。 「そう、代用品。あんたたちって顔だけはそっくりだからね、姉でも代わりがきくってわけ。こっちとしてはいたぶるれるならどっちでもいいのよ」  だからずっと家で縮こまって寝ててもいいのよ“できない方”の真琴ちゃん?  安城が高らかに笑うとグループの女子たちも何が面白いのかお腹を抱えて笑いだす。相変わらず宗教みたいだ。  彼女たちにとって安城は教祖様なんだろう。  学校という小さな箱庭で頂点に君臨する王様。  本当に狭い世界。  そこから飛び出したらあなたは只の人でしかないのに。 「でも遊ぶオモチャが増えて嬉しいわ。これからはあんたたち双子どっちも痛めつけてやるわ!」  教室に担任が入ってきた。  時計を見るとホームルームが始まる時刻だった。  異様な空気を感じたのか「どうかしたのか?」と聞いてきたが、安城は穏やかな笑みを浮かべ何事もないことを伝えた。  担任はそれ以上何も聞かなかった。  本当は気づいてるくせに。  安城たちのいじめに薄々気づいているんでしょ?  追及しないのは面倒だから、大事になるのを恐れてるから。  あわよくば時間が解決してくれると思ってるんでしょう?  こんな人に助けを求めてもきっと何も起こらない。  私は歯を食い縛って席に着くことしかできなかった。  その狭い世界からも飛び出せないのは私だって同じなのだから。
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