中学校

10/13
前へ
/38ページ
次へ
 私が登校を再開してから安城たちからの攻撃対象は私へ戻った。  実琴も廊下ですれ違い様に足を引っかけられるなどの嫌がらせは受けているものの、私が学校を休んでいた時程の攻撃は受けていないようで、以前できていた痣も綺麗に治っていた。  そのぶん戻ってきたターゲットの私への攻撃は安城の予告通り更に加速していく。  それは授業中から休み時間にまでおよび、ある日の昼休み、巡回中の生活指導の教師が教室に顔を覗かせて以来、危機感を感じたのか安城たちはいじめを行う上での場所選びに慎重になった。 『昼休み、屋上へ来い。来なければまた姉を代用する』  七月の中頃のことだった。  机の中に入っていた紙切れを読んで私は震えた。  人をいたぶることにここまで執着する安城を恐ろしく感じた。  紙切れを握り締め、唇を噛む。  誰が行くか。  行ったら何をされるかわからない。それを知ってて行くなんて愚か者だ。  でも私の頭の中で実琴の姿が過った。  私が行かなければ実琴がまた標的にされる。それだけは絶対嫌だ。 (もしなにかあれば叫んで逃げ出してやる)  私は屋上へ向かった。  この時の甘い判断を私はすぐ後悔することになる。  屋上にたどり着くといきなり顔に紙袋を被せられた。  視界が閉ざされた私は全身を殴打され地面に転がされた。  次々と襲いかかる痛みに頭がクラクラする。逃げたくても逃げられない。 「本当に来るなんてバカな奴!」  安城の声がした。他の仲間の笑う声もする。 「姉を引き合いにすれば絶対来ると思った」「健気な妹ちゃんだねー」「尊い尊い」  袋が外され乱暴な手つきで髪を引っ張られる。 「ひ……」  うつぶせにされた私の目の前には下界が広がっていた。 「ま、あんたが来ようが来まいが姉もいたぶるって決めてんだけどねぇ。このまま老朽化したフェンスと一緒に落ちてみる?」 「や、やめて」  私が抵抗していると、屋上のドアが勢いよく開いた。 「真琴っ!」  私を見つけた実琴はその場へ駆けつけ安城に掴みかかった。 「妹に何すんのよ! 真琴から離れろ!」 「邪魔するなよ! あんたには関係ないでしょ!?」 「妹いじめられて黙ってる姉がいるか! いいから離せ!!」  実琴が先に掴みかかったものの、上背のある安城が実琴を引き離し、実琴はフェンス側へ勢いよく押し付けられた。 「あ」  その時。  実琴を受け止めたフェンスはあっさりと固定された地面から外れ、宙へ放たれた。  フェンスに寄りかかる実琴の足も、屋上の地面から離れていった。  実琴の姿が屋上から消えた時、安城たちは初めて事態を知ったのか狂ったような悲鳴をあげ屋上から這い出ていった。  下の方からも悲鳴が聞こえてきた。救急車という単語が何回も飛び交っている。 「なんで、どうして」  取り残された私は下を確認するのが怖くて、その場から動くことができなかった。  ほらね、あんたは“できない方”なんだ。  いつか誰かが言った言葉が脳内で木霊した。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加