小学校

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 実琴は器用だった。ちょっと意地の悪い言い方をすると要領がいい。  要領がいいと何が良いっていうと、世の中を自由に生きられる。波の流れに沿って気持ちよく泳ぐ魚のようにさらさらと。  それは普段の学校生活でも目に見えた。  実琴は幼稚園の頃から何でもそつなくこなす。  ほんの戯れに用意されたお試しの算数の問題を難なく解き、鉄棒の逆上りも綺麗に一回転、クラスの演劇では主役のお姫さまを堂々とやってのける度胸もある。  だけど実琴はそのどれもに熱中することはなかった。  周りからは絶賛されても、実琴がそれらを継続する程の面白味はなかったそう。  優秀な姉の後ろでそっと控える存在、比べられるだけの対象として一人では何も評価されないのが私だった。  同じことをやっても差が出来てしまう。双子でなら尚更。  優秀な姉相手に勝ち目の無い勝負はせず、私は私で唯一姉に勝るものを奪われないように守り続けようと決意していた。  だから私は勉強だけは頑張っていた。将来の夢である公務員になるため毎日学校から家に帰ってすぐ宿題に取り組んだ。 「最低限のことはちゃんとやりなさい」 祖父が口が酸っぱくなるまで言っていたので帰宅後すぐの宿題は習慣のようになってたので苦ではなかった。  対して実琴は宿題の締め切りギリギリまでねばって遊んでいたし、テスト前でも机に向かう姿を見たことがない。ちょっとだけそんな姉が心配になった時もある。  ともかく、勉強だけは私の味方。最大の武器。  そう思っていたのに、唯一の優越感は祖父の何気ない一言によってあっさり打ち砕かれてしまう。
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