高校

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「あら真琴。なにかいいことでもあったの?」  ご機嫌で朝食を食べる私に向かいに座る母が声をかけてきた。ちなみに父は一足先に出勤し祖父は散歩に出かけている。 「わかる?」 「わかるわよ。あの日から滅多に笑顔なんて見なかったから」  あの日。  実琴が亡くなった日だ。 「……」 「昨日帰った時から明るい雰囲気だったから。真琴の笑顔を見れて母さん嬉しかったのよ」  そう言って目を細める母はまた痩せていた。  実琴のことだけでなく私のことでも心配かけてしまっていた。  申し訳ない気持ちもあったけど、それより先に感謝の気持ちを伝えたかった。 「……ありがとう母さん」 「どういたしまして」 「あのね、高校にくーちゃんがいたの。ほらよく遊んでた幼馴染の。やりたいことがあってこっちの高校に通うんだって。何がやりたいのかは秘密にされたけど」 「あらそうなの。空くんが」  母が懐かしむように微笑む。 「仲良しだったもんね。よく三人で遊んでたわよね。もう高校生なんて早いわねぇ」 「私も高校生なんだけど」  私が言うと母は「人の子の成長は早く感じるものなのよ」と言った。 「実琴は元気?」  昼休み。昼食の惣菜パン三つを持参し教室までやってきた幼馴染の質問に私は肩を強張らせた。  くーちゃんと再会した時から聞かれるのを覚悟してた質問。 「うん、元気だよ」  とっさにそんな返事をしてしまった。五秒後に後悔。 「そっか。よかった。双子でも進路先は違うんだね。当然といえば当然だけど、でもいつも二人でいたから、片方いないと寂しいね」 「……うん」 「実琴はどこの高校なの?」 「(ひいらぎ)高校」 「へえ、名門じゃん。さすが実琴」 「そうだね」 「実琴のことだから部活動の掛け持ちして高校でも大暴れしてるんだろうな」  楽しそうに話す彼の顔を見るのが辛い。  昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。  彼が自分のクラスに帰る様子を見て一瞬の解放感を覚えるが、次にそれを越える罪悪感が込み上げてきた。 「なんで正直に言わなかったんだろう……」  咄嗟に嘘まで吐いて。  何をやってるんだ自分は。  彼にまで隠すことではないのに。 『なんで隠すの?』  心の中でもう一人の自分が聞いてくる。 『実琴が死んだのは隠すこと?』 『姉の死を告げるのは悪いこと?』 「ちがう、そんなわけない」  それなのに親しい幼馴染にまで嘘を吐いてしまうのは、私のせいで実琴が死んだと思ってるから?
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