高校

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 あの日から私はくーちゃんと話さなくなった。  放課後開催の橙色の古城の集まりも私の修正作業が一段落したことによって会う約束もしていなかった。  だから彼との関係も自然にフェードアウト……なんてことではなくて、所謂喧嘩状態。主に私が一方的に。  自然消滅する気はないし仲直りだってしたい。  でも実際私は移動教室や休み時間ですれ違う際、くーちゃんが声をかけることを試みてきたものの逃げるようにその場を離れてしまう。  ただひたすら気まずかった。  完璧に私による私のための私による核心を突かれたことによる怒りからの逆ギレだ。  彼や祝井さんの意見が間違っているなんて思ってない。  だからといって自分が正しくないとは思えない。  だって、私は実琴が死んだと真っ直ぐに受け止められない。  授業も身に入らずだからといって小説のラストの修正もすることなく、上の空で頬杖をつき教師の英単語の説明やら文法の活用法を右から左へ聞き流す。  英語教師は「天野がなんかまともに授業受けてる……いや、不真面目だけど」と鳩が豆鉄砲喰らったような表情をしていた。  雨が降っていた。  午後の授業を終え帰宅しようと靴箱へ向かう途中、窓を打つ雫に気づき「あちゃー」と声が漏れた。  午後から降ると天気予報で言っていたのに雨具を持たずに登校してしまった。  カッパも着ずに数十分雨に打たれながら自転車を漕げる自信はない。  少し待てば止むかと思い靴箱の隣に置いてある傘置きに腰を浅くかけ待ちぼうけたが予想と反対に雨は強くなる一方だった。  昇降口の向こう、下界を見れば悲鳴をあげ濡れ鼠で帰る男子たち、下敷きを頭部にあて(もはや横殴りの雨に何も守れてない)全力で走る男子生徒、相合い傘で互いに遠慮しあい片肩びしゃびしゃの初々しいカップル、車で迎えに来てもらう強者といた。  こういう時、実琴は準備がよかった。非常事態にぱっと絆創膏なり傘なりレインコートなりすぐに出せるのは実琴の方だったりした。  雨は益々強くなってきた。  グラウンドの土が大きな雨粒で抉られていく様を見て自分が当分家に帰れないことを悟りため息を吐く。 「なにしてんの」  振り替えるとくーちゃんがいた。片手には紺色の大きな傘。 「くーちゃん」 「雨、強くなってきたね」 「そうだね」  雨粒がとっとっと、とまるで音頭をとるように一定のリズムで地に降りる。  止む気配は相変わらずない。 「そんなところにずっといると風邪ひくよ」 「……」 「傘入って。帰ろう。僕の家近くにあるから。そこで雨宿りしよう」  くーちゃんの家? 「僕の家っていうか祖父の家だけど。爺ちゃん亡くなってから空き家になってて、僕が高校に通うため使わせてもらってる……っていうより爺ちゃん家に住むためにこの高校通ってる」 「どういうこと?」 「詳しいことは着いてから話すよ。今まで内緒にしてたこと、真琴に話したい。ていうか話させて」  くーちゃんはそう言うと大きな傘の中に私を入れて歩きだした。  左肩に彼まわした手が添えられ、紺色の天井が雨粒を弾いてくれる。ふと隣を見ると、彼の右肩は濡れていた。
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