再会

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再会

 それから二ヶ月が過ぎ、六月。  原稿修正の締め切り日を迎えた。  私は「ラストだけは修正を入れずあのままにさせてほしい」と祝井さんに電話で頼んだ。  祝井さんは私の電話越しの声に譲れないなにかを感じたのか、思ったよりあっさりと承諾してくれた。こうして校正作業は無事に終えることができた。  そして夏の暑さ残る初秋の九月頃。  私の処女作【片翼で空は翔べるか】は発売された。  作者の名前は天野真琴ではなく星野真実(ほしのまみ)と記されている。ペンネームだ。  一応本名は避けた方が無難だと思い、直前に祝井さんに頼みペンネームにしてもらった。  発売日にくーちゃんと一緒に学校帰りに書店へ直行した。  一目散に小説の並ぶ棚へ向かったが、発売されたばかりの本は新刊コーナーにある事実を小説コーナーを三周してから知り、自分たちがいかに本屋離れしていたかを知らされる。  新刊コーナーに行くと自分の本が平積みされていた。  それをを見て胸が熱くなる。  やっぱりこうして並んでるのを見ると感動するものがあった。  見本本は出版社から届いていたが、私は一冊をとってお会計へ向かった。後ろの列にはくーちゃんが立っていた。彼は同じ本を二冊持っていた。  本が発売されてから私の生活が劇的に変わることはなかった。  実琴の物語はたしかにこの世に羽ばたいた。実琴の人生は物語を通して多くの人に認知されるだろう。  ひとまず、私の“目的”はここで一段落(・・・)を迎えたのだ。  なぜ一段落だって?  それはこの物語がまだここで終わらないから。  むしろここからが始まりだったからだ。
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